桐谷健太インタビュー!『ミラクルシティコザ』好きな音楽で戦い、楽しむ姿に共感した

テラスマガジン編集部

自分のしたいこと、するにふさわしいことをする
好きな音楽で戦い、楽しんでいる姿はとても共感できました

米軍統治下の沖縄が舞台の映画『ミラクルシティコザ』に主演した桐谷健太。1970年代と現代が交錯する本作を通じて「大好きな沖縄の知らなかった一面に触れられた」と言う彼は、どんな想いをもって臨んだのか。かつての自身の心境と照らし合わせながら存分に語ってもらった。

―本作は、アメリカの統治下であった1970年と現代の沖縄を舞台に、ベトナム戦争特需の好景気と、それにまつわる様々な問題を音楽とコメディに乗せて描かれています。出演が決まったときはどんなお気持ちでしたか?

「事務所から電話をもらったとき僕はちょうど海辺にいまして、“あ、来たな”って思いました。(笑) 目の前に広がっているこの海が沖縄とつながっていると思うと、胸が熱くなったことを今でも覚えています」

ー作中、1970年では米兵たちを熱狂させたロックンローラー・ハルと、ハルの身体に乗り移ってしまう孫の翔太の一人二役を演じられました。演じ分けるために意識されたことは?

「ハルのバンドであるIMPACTは実在する伝説のロックバンド・紫がベースです。資料を読み込むのはもちろん、バンドマンの方々にお話をお聞きし、脚本を読んだときに感じたインスピレーションと合わせて芯を作っています。特にハルは米兵と沖縄の住民の“間”にいる存在なので、どちらにも物怖じしない肝の据わった感じを意識しました。
翔太に関しては、現代パートを演じた(津波)竜斗とディスカッションを重ねました。撮影が始まった当初はまだ会ったことがなかったんですけど、話し方などは動画で送ってもらいました。(笑)」

―桐谷さんがハルに共感できたことはどんなところでしょうか?

「沖縄は戦場になった場所です。そこに暮らしていた方々からすれば急に武器を持った米兵が入り込んできた。そして、時が流れながらベトナム戦争特需に沸く裏では様々な問題が起き続けている。ハルは複雑な思いを抱く住民を理解しながらも、どこか米兵にも同情しているんです。紫のドラムのチビ(宮永英一)さんから、最初は上から目線で“あの曲をやれ!”と言ってきた米兵が、戦況が悪化する度に祈るような目で“あの曲を弾いてほしい”と言うようになり、彼らも戦争の被害者だと感じたとお聞きしました。
そんな米兵と住民の間に挟まれて音楽をするハルが“(米兵から)音楽で金を巻き上げてるよ”と言うシーンがあります。自分のしたいこと、するにふさわしいことをする。好きな音楽で戦い、楽しんでいる姿はとても共感できました」

―ハルとは違い、やりたいことが見つからず、何者かになりたいともがく翔太についてはいかがでしょうか? かつて役者を志したときの桐谷さんと重なるところがあればぜひお聞きしたいです。

「僕はとにかくこの世界に入りたい、俳優になりたいと決めていました。でも東京に出てきたばかりのときは、なり方もわからずぜんぜん上手くいきませんでした。本当に苦しかったので、翔太とは少し違いますが気持ちはすごくわかります」

―翔太はただ漠然と焦るだけで、そのまま朝を迎えていました。桐谷さんにもそんな時期があったのでしょうか?

「めちゃくちゃありましたよ。夜ふかしが友達だと思っていたほどです。(笑) 夜って余計なことばかり考えますよね。眠れなくなって気がついたら朝5時とか、タバコでこんもりした灰皿の記憶とか。自信があったから東京に出てきたはずなのに、どんどんすり減っていく感覚を覚えています。でも気持ちの火だけは消えなかったですね」

―振り返ってみて、今は糧になっていると思えることはありますか?

「たくさんあります。悩むにしても、当時は暗い方を見てどっぷり浸かっていく感覚でした。でも今は“ちがうちがう、こっちや”と明るい方を見て考えられます。経験を積み重ねたからなのか、余計に積んだ考えを積み減らしたのか、わかりませんが。(笑)
作中でも翔太が過去を変えずに未来を変えようと奮闘しますが、固執して縛られるより、徐々に変えていく感覚を持てると素敵ですよね」

―最後に撮影時の印象的なエピソードを教えてください。

「あるとき現場でトイレがないときがあって、すごく昔からやってそうなスナックでお借りしたことがありました。僕が出た後に監督もトイレをお借りしたら、お店にいたおばあちゃんが“さっき出ていった彼が私たちの青春時代のバンド、紫の一人みたいで嬉しくて…”と泣き出してしまったんです。偶然トイレを借りただけの場所でそんなことが起きるなんて、もうそれだけでこの役をやった甲斐があったと感じました。
人間は自身が経験したことや、自分がいる世界のことにしか目が向かないですが、本作を通じて一人でも多くの人に、様々な歴史や観点を届けることができたら嬉しいです」

©2021 Office Crescendo

『ミラクルシティコザ』
監督・脚本 / 平一紘
出演 / 桐谷健太、大城優紀、津波竜斗、小池美津弘 他
公開 / 2月4日(金)より新宿武蔵野館 他
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桐谷健太 プロフィール
きりたにけんた|俳優・歌手
1980年2月4日生まれ。大阪府出身。2002年「九龍で会いましょう」でデビュー。「ROOKIES」の平塚平役で知名度を高める。近作に『火花』、『ビジランテ』、「俺の家の話」などがある。2013年より歌手としても活動を開始。「海の声」で第58回日本レコード大賞優秀作品賞受賞および第67回NHK紅白歌合戦出場を果たす。


撮影 / 角戸菜摘
スタイリスト / 岡井雄介
ヘアメイク / 石崎達也
文 / 永井勇成

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