『ビリーバーズ』磯村勇斗 × 宇野祥平 インタビュー「互いに尊敬し合う二人が現場で作り上げたもの」 2022.7.6

カリスマ的な人気を誇る漫画家・山本直樹による『ビリーバーズ』を、鬼才・城定秀夫監督が実写化。磯村勇斗が映画初主演を務め、宇野祥平、北村優衣らを共演に迎えた本作は、俗世と離れたとある孤島にて“奇妙”な生活を送る男女の姿を描いたものだ。この異色作がどのようにして誕生したのか。互いに尊敬し合う関係である磯村と宇野に話を聞いた。
議長役が宇野さんだと知ったとき、“これは間違いない!”と思いましたね。──磯村勇斗
彼が初めて主演を務める場に立ち会えるのが嬉しかった。──宇野祥平
異色作への参加の経緯
磯村:主演のオファーをいただいて、そこで初めて原作を読みました。衝撃的な原作とそれを元にした脚本があって、しかも監督は城定さん。“これは面白い作品になる!”と確信したのがすべての始まりです。ただ正直なところ、あまりにも異色の作品なので、脚本を読んだだけでは明確なビジョンは浮かびませんでした。この異色作をどう映像化するのだろうかと。けれど、そんな想像もつかないところにこそ惹かれたというか、“参加してみたい”と心を揺さぶられた感覚がありましたね。なので現場に入ってからようやく、見えていなかったものが見えてきて、作品が具体的に立ち上がっていくのを肌で感じました。そうは言っても、まったく見えていなかったわけではありません。原作と脚本を通して、この作品が訴えたいものを感じ取ることはできていましたから。
©山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会
宇野:僕は山本直樹さんの『ビリーバーズ』を城定監督が映画化することを知っただけで歓喜しました。お二人のファンなので、この企画が実現するという事実だけで嬉しかったですし、城定組に十数年振りに参加できる喜びがありました。お話をいただく数ヶ月前、磯村くんとは映画『前科者』の現場でご一緒していて、そこでは少しだけしか話すことができなかったのですが、すごくいいなと思ったんです。あんまり褒めたりしたくないんですけど(笑)、なんだかずっと前から知り合いのような居心地の良さが彼にはあるんですよ。そういうこともあったので、この『ビリーバーズ』の主演が磯村勇斗さんだと聞いて、“これは観たい!”と。それに、彼が初めて主演を務める場に立ち会えるのが嬉しかった。
磯村勇斗と宇野祥平の関係
磯村:議長役が宇野さんだと知ったとき、“これは間違いない!”と思いましたね。さまざまな作品で目にする俳優・宇野祥平を尊敬していましたし、『前科者』の現場でお話ししたときの人柄も……あまり言いたくないですけど、“俺、宇野さん好きだなぁ”っていう(笑)。今回はガッツリご一緒できて本当に光栄でした。宇野さんって、スクリーンに登場するとどうしても目で追っちゃう方なんですよ。宇野さん自身が発する魅力的なオーラがあるのだと思います。各作品から受ける宇野さんの印象はさまざまなので、気難しい方なのかもしれないと思っていましたが、実際にお会いしてみるととても物腰柔らかな方で。ギャップ萌えしてしまったのを覚えています。
宇野:磯村くんは出演する作品ごとにまったく違う顔を見せるので、“どんな人なんだろう?”と思っていました。あんまり褒めたくないんですけど……結局本人が魅力的なんだと思います。最近思ったのですが、磯村くんは“どこかで会ったことのある子ども”のような印象の素敵な顔をしているんです。そのせいか初めて会ったときも、初めてという気がしなくて、親近感を持ちました。そしてそれは『ビリーバーズ』の現場でも同じで、北村さんも含めて三人で過ごした時間は非常に良いものでした。僕の方が年上なのに、二人のさりげない優しさには何度も助けられましたし、とても感謝しています。
城定組の現場で築き上げたもの
©山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会
磯村:物語の舞台が孤島なので、三人で過ごす時間が長かったです。だから他の作品で共演する方々とはまた違う距離感でいられたというか、絆のようなものが生まれました。“生まれが同じなんじゃないか”っていうくらい。“僕たちで完成させていくぞ”という意識を共有できていたと思いますし、同じ熱量を持って同じ方向を向いて現場に臨めていたと思います。お芝居に関しては事前に話し合ったりすることなく、楽しみながらセッションしていくスタイルでした。城定さんは、特にセンシティブなシーンなどでの演出がピカイチで、すごく安心してお芝居に臨むことができました。あまりテイクを重ねることがないよう、自然な形で誘導してくださるんです。本作では登場人物たちが自分の見た夢について語るんですが、撮影期間中で印象に残っているのは、僕の夢に宇野さんと北村さんが出てきたこと。僕は撮影期間中、別の仕事で一度だけ東京に戻ったのですが、その日の夢に二人が登場しました。“うわ、俺は二人を求めている!”と実感したんです(笑)。三人で親密な関係を築いていただけに、寂しかったんだと思います。
宇野:磯村くんが東京に戻っているときに、実はネットで彼の様子をチェックしていました。もちろん仕事で帰っているわけですが、磯村くんが再び東京に染まっていたら嫌だなと思って。議長としての仕事でもあります。それで、どんな顔をしているのかと思って見てみたら、全然こっち側の顔をしてた(笑)。逆に心配しましたよ。“これダメでしょ!”って。でもとても素敵でした。城定組の現場はとてもスピーディーで、天候の問題はありましたが、状況に左右されず臨機応変に進んでいきました。改めて城定組のすごさを目の当たりにしましたね。磯村くんの言っていたように、あの場に立ってみて初めて見えてくるものがありました。孤島、プレハブ小屋、波打ち際の光景、ニコニコTシャツ……。スタッフ、共演者の皆さんにヒントをもらいながら、城定監督に丁寧に演出してもらいました。
本作を経て二人が得たもの
宇野:ビリーバーズの三人は孤島でただならぬ日々を送っていますが、なぜか、普通の暮らしをする自分たちと大差ないように感じます。不安定で不穏ないまの時代には理解し難いものがありますが、この時代に生きる自分たち一人ひとりが理解し難い存在なわけではない……ということと同じなんじゃないかなと。僕たち一人ひとりの中で起こっているものを丹念に作品に投影していく城定監督に、見るべきは“状況”ではなく“人”なのだと教えてもらった思いです。
©山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会
磯村:本作が描いている世界はあまりにも特殊です。オペレーターたちの心は夢と現実のはざまで揺れ動いていて、目にするものが夢なのか現実なのか分からない瞬間もある。僕自身は生きていて、夢であってほしいと思うことが多々あります。人と人、国と国との争いごとは絶えないし、それらについて考えるたびに夢であってほしいと思ってしまいます。でもそれらは現実に起きている。人間は目を背けたいことに直面したとき、現実逃避をするためか、それをあたかも夢や幻であるかのように捉えて、忘れてしまう機能があると思うんです。本作の現場やできあがった作品に触れたことが、このことについて深く考える機会になりました。人間の脳はいくらでも都合よく騙せます。現実にあるものをフィクショナルなものとして捉えることへの風刺も、本作の持つテーマの一つなのかなと思います。
磯村勇斗
いそむらはやと|俳優
1992年9月11日生まれ。静岡県出身。「仮面ライダーゴースト」のアラン/仮面ライダーネクロム役で注目を集め、連続テレビ小説「ひよっこ」でヒロインの夫となるヒデ役を演じ脚光を浴びる。その後、数々のドラマ、映画の話題作に出演し、2022年に『ヤクザと家族 The Family』『劇場版 きのう何食べた?』の2作品で第45回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。待機作に『異動辞令は音楽隊!』『さかなのこ』などがある。
宇野祥平
うのしょうへい|俳優
1978年2月11日生まれ。大阪府出身。2000年に俳優デビューし、映画、ドラマを中心に数多くの作品に出演。2020年公開の『罪の声』『本気のしるし 劇場版』『恋するけだもの』他の演技で第94回キネマ旬報ベスト・テンなど複数の助演男優賞を受賞する高い評価を得る。待機作に『アキラとあきら』『さかなのこ』『オカルトの森へようこそ』など。現在、テレビ東京水ドラ25「ザ・タクシー飯店」に出演中。
©山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会
『ビリーバーズ』
原作 / 山本直樹
監督・脚本 / 城定秀夫
出演 / 磯村勇斗、北村優衣、宇野祥平、毎熊克哉、山本直樹
公開 / 7月8日(金)よりテアトル新宿 他
©山本直樹・小学館/「ビリーバーズ」製作委員会
撮影 / 角戸菜摘
取材・文 / 折田侑駿
衣装(磯村) / ジャケット ¥52,800 meagratia (Sian PR 03-6662-5525)、シャツ ¥19,800、パンツ¥22,000、シューズ ¥42,900 すべてNEEDLES (ネペンテス 03-3400-7227)、ネックレス ¥16,000 COGNOMEN (サカスPR 03-6447-2762)、リング ¥13,000 HARIM (スタジオファブワーク 03-6438-9575)、ブレスレット ¥30,800 IVXLCDM (IVXLCDM六本木ヒルズ 03-6455-5965)