中島歩「不安こそがモチベーションに繋がっている」 『さよならエリュマントス』インタビュー 2023.8.10

ミスマガジン2022の受賞者6名を主演に迎えた映画『さよならエリュマントス』。大野大輔監督による本作は、崖っぷちに立たされたチアリーダーたちの奮闘を描いたものだ。問題アリのマネージャー・宍倉役を演じた中島歩は、シビアでユーモラスな会話劇が展開する大野ワールドを堪能したという。そんな彼に現場のことだけでなく、自身の演技の方法論まで語ってもらった。
大野大輔監督の「観る者を惹き込む特異な力」
──出演の経緯を教えてください。
中島「『さいはて』という映画でご一緒した山口幸彦さんや、ここ数年いくつもの作品でご一緒している直井卓俊さんがプロデューサーということで、出演までの流れは自然なものでした。もちろん、一番大きな出演の決め手は大野さんの作品だということです。前作の『辻占恋慕』に魅了されていたんですよね。特別に珍しい話を描いているわけではないのに、観る者を惹き込む特異な力がある。年齢が近いということもあって、大野さんとやってみたかったんです」
──本作において中島さんは特殊な立ち位置のように思うのですが、企画の概要に目を通してみていかがでしたか?
中島「主演の6人がそんなにお芝居の経験があるわけではないと聞いていたので、正直なところ心配はありました。彼女たち自身も不安だったでしょうし、かといって僕は支えてあげられるようなタイプでもないので(笑)。だからお芝居そのもので引っ張っていくというか、背中を押すことができたらと思っていました。それに、そもそも脚本が彼女らへの当て書きで、役には個々のパーソナリティが反映されています。実際に現場をともにしてみて、彼女たち一人ひとりの魅力が作品の魅力に繋がっていくのを感じていました」
──脚本を読んでみていかがでしたか?
中島「すごく入っていきやすいものだと感じました。僕自身は特別な“推し”がいるわけではありませんが、世の中の多くの人が誰かのことを応援して見守っていますよね。たとえば、ステージに立つアイドルの方たちは、それぞれに不安や焦りを抱えながら闘っていると思うのですが、それはその行く末を見守る側も同じなのではないのかなと。このことがそのまま脚本に反映されていると感じました。でもこれって、ともすれば何の引っかかりもない映画にもなりかねませんよね。“アイドルの奮闘記”ってよくある話ですから。ですがそこはやっぱり大野さんの脚本なんですよ。彼の個性がセリフの隅々にまで刻み込まれています」
ジャック・ニコルソンから影響を受けた演技の方法論
──チアリーダーのマネージャーである宍倉というキャラクターにはどのような印象を抱きましたか?
中島「こんなに悪態をつくような役は初めてだったので、俳優として新しい領域に踏み込んでいけるかもしれないと思いました。でもかといって、宍倉は自分と対極的なキャラクターというわけではありません。彼の性格のところどころは僕自身のパーソナルな部分と重なり合ったりもしていますから。ただこれはですね……大野さんが演じたほうが絶対にいいとずっと思っていましたよ(笑)」
──どのようなアプローチで役を掴んでいったのでしょう?
中島「最初に川瀬陽太さんとのシーンを撮ったのですが、彼とやり取りをしているうちに宍倉のバイブスになっていきました。セリフを口にしたり、動いてみたり、何はともあれまずやってみることが大事だと思っています。外側をつくってみて、あとから役の内面や主体性が生じてくればいいのかなと。イメージしたものを実践してみて、最終的にそこに説得力を持たせることが重要。川瀬さんと最初にやれたのはよかったですね」
──中島さんの演技の方法論はいつ頃に確立されたのですか?
中島「俳優活動を始めたばかりの頃は、外側だけをつくってそれっぽく演じることが許せませんでした。そういう芝居をしている人に敵意すら覚えていたくらい。今でも俳優自身が自分の気持ちを使う芝居の方が優れているとは思います。でもこのことに固執していると、演技の振り幅が狭くなっちゃうことに気づいたんです。感情を乗せやすい役しか演じられなくなりますし、自分の俳優としての幅が100だとしたら、その枠から出ることができない。だからまず思い切ってやってみることがすごく大事だと思っています。映画『シャイニング』のメイキングで、ジャック・ニコルソンが本番前に叫びながら斧を振り回してテンションを上げているのを観たことがあります。その様子を目にしたときに、“あ、これだ!”と思いました。外側をつくれば、しだいにそういう顔になってきますし、そういうマインドにもなってくる。僕もテンションを上げなければならないときにはこれを実践しています」
──チアリーダーの面々は、不安や焦りに苛まれながらもがいています。中島さんは俳優としてどうでしょうか?
中島「数年前と比べれば楽になりましたけど、やはりこの仕事は不安定ですから、不安な気持ちがなくなることはないでしょうね。それにこの不安こそがモチベーションに繋がっているとも思っています。活動を始めたばかりの頃はとにかく不安だったからこそ、たくさん映画を観たし、芝居の勉強をした。誰かと関わりを持つために、営業的なこともいっぱいしました。それらのすべてがいまに繋がっています。エンターテインメントの世界で生きている以上、不安というのは持ち続けるべきものなのかもしれません」
中島歩
なかじまあゆむ|俳優
1988年10月生まれ、宮城県出身。美輪明宏主演舞台『黒蜥蜴』雨宮潤一役に選ばれ、2013年俳優デビュー。2014年にNHK連続テレビ小説「花子とアン」でテレビドラマに初レギュラー出演。2015年公開の初主演映画『グッド・ストライプス』で第7回TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞。2023年は映画『恋のいばら』、『銀平町シネマブルース』などの出演作が公開されたほか、出演した新作映画『17歳は止まらない』(8月4日)、『さよならエリュマントス』(8月11日)、『スイート・マイホーム』(9月1日)の公開が控えている。
『さよならエリュマントス』
監督・脚本 / 大野大輔
出演 / 瑚々、咲田ゆな、麻倉瑞季、斉藤里奈、三野宮鈴、藤本沙羅、中島歩、⽶本学仁、豊⽥ルナ、川瀬陽太、平井亜⾨、⽥中爽⼀郎
公開 / 8月11日(金)よりシネマート新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷 他
© 「さよならエリュマントス」製作委員会
元々は甲府の社会人野球チーム“エリュマントス”のチアリーダーだったココ(瑚々)、ユナ(咲田ゆな)、ミズキ(麻倉瑞季)、リナ(斉藤里奈)、スズ(三野宮鈴)、サラ(藤本沙羅)はマネージャーの宍倉(中島歩)に連れられて地方の催事場などでのイベントに出演させられ、あちこちでドサまわりさせられている。そんな最底辺の地下アイドルのような活動をさせられているメンバーたちと宍倉は喧嘩が絶えず、溝が深まるばかり。とある日、またイベント参加のため山梨の温泉街にたどり着いたエリュマントスチームだったが、宍倉の不用意な発言から無用なトラブルに巻き込まれてしまい……。
撮影 / 池村隆司・文 / 折田侑駿 ヘアメイク / NEMOTO