綱啓永「たくさん蒔いていた種が1つ、芽を出してくれた」 『違う惑星の変な恋人』インタビュー

テラスマガジン編集部

木村聡志が監督・脚本を務めた映画『違う惑星の変な恋人』は、サッカーワールドカップの裏で繰り広げられる、厄介な5人の男女の恋愛群像劇。綱啓永は復縁を迫る元カレ・モー役をどのように“変”に演じたのか、第36回東京国際映画祭アジアの未来部門に正式出品された本作でレッドカーペットを歩いた体験についても振り返ってくれた。

「誰しもどこかしらで気持ち悪い部分を持っているもの」

――『違う惑星の変な恋人』への出演の経緯を教えてください。

綱「きっかけはオーディションです。この作品に何としても参加したいという思いで一生懸命やったところ、かなり変わった役でしたが、無事に出演が決まりました。役の幅が広げられるということで、すごく嬉しかったですね。実際に映画の中でも演じたシーンでオーディションをしましたが、演じることに難しさも感じました。それでもこの役をやってみたいと思いましたね」

――オーディションの時からモー役と向き合ってきたのですね。モーの第一印象はいかがでしたか。

綱「率直にいうと変な人だし、気持ち悪いキャラクターだな、という印象でした。僕の友達にはいないタイプですね。演じていてもその印象は変わりませんでしたが、それがモーの可愛い部分でもありますから。“気持ち悪い”というのは、この作品においての褒め言葉。モーの印象は“気持ち悪かった”ですね」

――“変な人だし気持ち悪いけれど演じてみたい”、というのはどういった気持ちなのでしょうか。

綱「誰しも、自分にはないと言いつつ、どこかしらで気持ち悪い部分を持っているものだと思います。僕にそこを引き出せるのかがすごく楽しみでした。こんな役を演じられるなんて絶対に楽しいだろうと思っていましたね」

――モーの個性をどのように役に落とし込んだのかを教えてください。

綱「仕草の部分で役と自分をマッチさせていきました。以前、有名な女優さんが『ヘアメイクと衣装で8割は役作りができている』と話しているのをインタビュ―か何かでお見掛けして、僕も第一印象が大事だと思っています。見た目が気持ち悪ければ、何をしても気持ち悪くなる。だから、僕はどちらかというと言葉の言い回しよりも動作のところでモーの個性を作り上げていきました。実はオーディションでは2パターンのモーを演じています。監督は、2回目に見せた芝居をいいと思ってくださり、合格にしてくれたそうです。だから僕自身も台本を読みこんで、オーディションの時の話を振り返りながら役を作って現場に行きました。考えていったことは現場でも受け入れてもらえましたね」

――綱さん自身、「セリフの殴り合いのような作品」だとコメントを出していましたね。

綱「脚本はいい意味で、ずっと変なことを言っていましたね。本当に面白いと思いながら読ませていただきました」

――実際に演じた中で、感じたことがあれば聞かせてください。

綱「長回しのシーンが多かったですね。ドラマではあまり長回しはしないので、ドラマにはない緊張感がありました。一方で、ドラマはパンパンとカットを割っていくので、そのたびに芝居の感情が切れてしまいます。だから気持ちを維持することが難しくて。その点、長回しで一連の芝居をやれば、全員の気持ちが繋がったままカットまで芝居を続けられます。だから僕は、緊張するとはいえ長回しの方が好きですね。緊張感も、現場にいるんだと感じられるので、それはそれで楽しいです」

――共演者の方の印象はいかがですか。

綱「この作品を通して莉子さんと、とても仲良くなることができました。メインの4人の中では一番年が近いし、同じシーンも多かったんです。莉子さんはすごくラフに僕のことを『綱』と呼んできます。僕は基本的に『綱』と呼ばれるのが好きではないけれど、莉子さんならいいかな(笑)。僕も普段はあまり女性に対して強く言えないタイプですが、莉子さんには言いたいことを言っちゃいます。性格的にも、僕がいじられる側で莉子さんがいじってくる側。最初からワチャワチャした空気を作ることができたので、芝居もスムーズにいきました。話しがしやすい友達という感じですね。むっちゃんとモーを演じるにはいい距離感で、すごく助かりました」

――ベンジーを演じた中島歩さんとの共演も気になりました。

綱「10歳も年が違うので当たり前かもしれませんが、中島さんは落ち着いていて大人です。とてもいい方で、お芝居についてのアドバイスもいただきました。視野が広くしっかり周りを見ているので、僕の役についてもすごく理解してくれていましたね。一番ナチュラルな芝居をしていたので、そこには刺激を受けました」

者を初めて6年、「“くすぶっていた”という感覚が強かった」

――綱さんは、本作で初めてのレッドカーペットを経験しましたね。

綱「幸せでしたよ。役者の仕事をしていて、ここに立てるなんて本当に光栄です。僕は役者を初めて6年目になります。それを長いと思うか短いと思うかは人それぞれかもしれないけれど、その間、僕の中ではずっと“くすぶっていた”という感覚が強かった。だから、やっとここで、こんな素敵な作品に出会えてレッドカーペットに立てたということが本当に嬉しくて。たくさん蒔いていた種が1つ、芽を出してくれたという気持ちです」

――いつかレッドカーペットに立ちたいという思いはありましたか?

綱「僕自身は、まだレッドカーペットを考えるような役者ではないと思っていました。でも今ここで立てたことは、ベストなタイミングだったと思います。もしも、もっと若い時に立ってしまったら、また違った感覚でいた気がするんですよ。今は感謝しつつ次に進もうという気持ちで立てたので、よかったです」

――ちょうど努力してきたことと、実力とのつり合いが取れる状態で立てたということですね。

綱「その通りです!」

――レッドカーペットのときに何か印象深いことはありましたか。

綱「実は僕、レッドカーペットに手をついて、そこから力を吸い上げてきたんです。みんなが歩いてきたところを触ったことで、僕は何かを手に入れたと思っています。パワーを注入できたので、そのパワーを来年以降パーンと発していきたいですね」

――役者として、これからは雰囲気の違う作品に挑戦したい思いも?

綱「ありますね。さっきも話題に出ましたが、中島さんがとてもラフでナチュラルなお芝居をしているのを見て、すごいと思ったんです。芝居なのに芝居に見えないというのは、簡単そうでいて一番難しいと思いました。中島さんのお芝居は、そこに存在する人がただ映画の中で喋っているだけのように自然に見えていた。僕もそんな役者になりたいし、そういう芝居ができる役を演じたいと思いました」

――この先の俳優活動で思い描いていることを聞かせてください。

綱「漠然としていて申し訳ないのですが、強くなりたいです。僕は以前、戦隊シリーズ(『騎士竜戦隊リュウソウジャー』・テレビ朝日系)に出演させて頂いた時、とても楽しかったんですよ。どうしてなのかと考えたところ、自分の役が強かったからだということに気づきました。思えば僕は、小さい頃から強いものが大好き。ヒーローもそうだし、アベンジャーズもだし、強さにもいろいろな強さがあると思うのですが、僕は最強の主人公という存在が大好きなので、そういう役をやってみたいです。強くなるということは、この仕事だからこそできるものですよね。だから久しぶりにそういう役をやってアクションにも挑戦してみたいです」

――最後に、本作を経て得たものがあれば、お願いします。

綱「この作品を通して普通の掛け合いとは違うテンポ感やリズムの会話を経験したことで、役者としての表現の幅を得たと思っています。今回、セリフではとても苦労しました。長いだけでなく、言っている言葉の意味がわからないセリフが続いたことが難しかったです。意味を理解した上で覚えていくとスーッと入ってくるのですが、このモーのセリフは本当にびっくりするくらい覚えられなくて。今回の撮影では、みなさんもセリフで割と苦労していたみたいです。そういう撮影を経て、莉子さんと話していたのは『もうセリフで怖いことはないね』ということ。セリフって役者からしたら一番初歩的なことだけれど、そこの部分では改めて“最強”になれたという自覚がありますね」

『違う惑星の変な恋人』
監督・脚本 / 木村聡志
出演 / 莉子、筧美和子、中島歩、綱啓永、みらん、村田凪、金野美穂、坂ノ上茜
公開 / 1月26日(金)より新宿武蔵野館ほか
©「違う惑星の変な恋人」製作委員会

美容室で働くむっちゃん(莉子)とグリコ(筧美和子)は音楽の趣味が合うことに気づいて以来、なんでも話し合う仲。ある日、グリコに未練のある元恋人のモー(綱啓永)が美容室に現れるが、グリコはシンガーソングライターのナカヤマシューコ(みらん)のライブで旧知のベンジー(中島歩)とも再会。ベンジーに一目ぼれした恋仲になるべく奮闘する。ベンジーはナカヤマシューコと関係を持つ一方で久々に会ったグリコにひかれ、グリコもベンジーのことが気になってしまう……。

綱啓永
つなけいと|俳優
1998年12月24日生まれ、千葉県出身。2017年、第30回ジュノンボーイコンテストにてグランプリを獲得。2018年にドラマ『文学処女』(MBS系)にて連続ドラマ初出演を果たし、2019年に『騎士竜戦隊リュウソウジャー』(テレビ朝日系)にてリュウソウブルー/メルト役で出演。2022年に『君の花になる』(TBS系)ではボーイズグループ8LOOMのメンバーとして話題を集め、2023年には6本ものドラマに出演するなど大きく飛躍を遂げた。

撮影 / 西村満 取材・文 / Nana Numoto スタイリスト / 三宅剛 ヘアメイク / 牧野裕大

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