岡田将生「相手が輝けば、自然とこちらも輝くことができる」 『ゴールド・ボーイ』インタビュー

テラスマガジン編集部

岡田将生を主演に迎え、金子修介監督がメガホンを取った『ゴールド・ボーイ』。沖縄を舞台に、狂気的な殺人犯と、その殺人犯に頭脳戦を挑む少年少女たちの攻防を描いた作品だ。子どもらを相手に凶悪殺人犯を演じた岡田は、主演俳優としてこれまでとは違う立ち位置で現場に臨み、多くのことを学んだのだという。そんな彼に話を聞いた。

「僕としてはチャレンジでした」

──本作は冷酷な殺人犯VSワルな少年少女たちという構図のスリリングな作品ですよね。どのような心持ちで現場に臨まれたのでしょうか?

「この作品に関しては自分のためではなく、子どもたちのためになろうということばかり考えていました。こういった姿勢で作品に臨むのははじめてのことで、僕としてはチャレンジでした。俯瞰的な視点を持って、作品にとってのいい距離感を保ちながら現場に立ち続けられたらなと。それにやっぱり、今回のような役は精神的に疲弊するのは明確に理解していたので、自分の心の状態をちゃんと維持しながら演じ切ることもまたチャレンジではありました。役に対してがむしゃらに向き合うというのではなく、共演者やスタッフの方々と同じ目線に立って一緒につくっていきたいと考えていました」

──岡田さんが演じた東昇は、頭脳明晰で冷酷なサイコパス的キャラクターです。どんな印象を抱きましたか?

「本作は脚本上でも彼のバックボーンまでは描いていません。そんな中で東昇の一番の特徴として挙げられるのが、異常なまでの知能数の高さ。知能数が高すぎるがゆえに、社会に対する態度が一般の人々とは大きく異なる。彼は平気で人を殺します。幼少期にまでさかのぼればその原因が分かるのかもしれないし、幼少期からそんな人間だったのかもしれない。なぜ彼は簡単に冷酷非道な行動を取ってしまえるのか。それはぜひ、映画を観てくださったみなさんに考えていただけたらと思います」

──精神的な問題は、やはり幼少期の経験が原因になっていたりすると。

「そうなのではないかと思います。幼少期の経験が人格形成には大きく影響しますよね。東昇が対峙する少年のひとり・安室朝陽(羽村仁成)は複雑な家庭環境で育っていますが、東昇もまた彼と同じくらいの多感な時期に、似たような経験をしているのかもしれないということはもちろん考えました。ですが脚本に書いてあるわけではないので、これが唯一の解ではありません。なので取材時にお話しする際はどうしても曖昧な言葉ばかりになってしまって申し訳ないのですが、金子監督とも“決めつけずにやっていこう”と話し合っていました」

──東昇というキャラクターはどのようにして掴んでいったのでしょうか?

「品よく美しくあろうと思っていました。彼は完全なる悪人ですが、誰しも正義と悪の両方を持っているものではないでしょうか。僕自身もそうです。なので東昇が画面に映った際、品よく美しく存在できれば、彼という人間を成立させることにつながるのではないかと。佇まいや話し方が美しくあれば、それが彼の生き方の美学やある種の正義を生むことになると考えていたんです」

──画面の隅にいても目を引く存在感でした。周囲の人物に対する細かなリアクションに魅せられたのですが、このさじ加減は難しかったのではないでしょうか?

「それはスタッフの方々の力が大きいです。ちょっとした仕草や表情の変化まで捉えてくださいました。密なコミュニケーションを取って信頼関係を築くことができていたからだと思います。みなさんが段取りのときからこちらの素直な変化を敏感に汲み取ってくださったので、緻密な計算のうえで何か表現してやろうとはそこまで考えませんでした。どちらかといえば感覚的な部分に頼っていましたね。監督も自由にやらせてくださったので、縮こまることなく自分の意見を出しながらシーンを重ねていきました」

──東昇と対等な関係にある子どもたちの存在も大きかったのではないですか?

「そうなんです。大人の俳優さんだと、どう仕掛けてくるのかそれなりに予想ができるのですが、やっぱり子どもたちはみんな自由で。彼ら彼女らがどんな動きをしてどんな表情をするのか。それが僕の毎日の楽しみでしたし、その反応として滲み出る東昇の感情を捉えていただくのがベストだと思っていました」

──岡田さんはここ数年だけでもとにかくクセの強い、独特なキャラクターを立て続けに演じている印象があります。ある種、東昇もこの系譜に連なるキャラクターなのではないかと思いました。

「これまで本当にいろんなタイプの役を演じさせていただいてきましたが、どこか欠けたところがあったり、何かが過剰なキャラクターを定期的に演じたいという欲求があります。そしてタイミングよくそういった作品や役に出会うことができているんです。個人的には何かが欠けている人間が好きですね。そのほうが人間らしいというか。本来、人間はもっと野生的であるべきだと考えたりもします。僕自身は欲望を捨てて生きている感覚がありますから。なので自分の欠けたところを埋めるためにも、そういったキャラクターを演じたい。それが最近はちょっと重なって、クセの強い役ばかりになっているのかもしれません(笑)」

──特異なキャラクターを演じることで、岡田さん自身も少し満たされると。

「いや……(苦笑)。でもまあ、そういった側面は少なからずあるかもしれませんね。面白がってオファーしてくださる方もいらっしゃるので。若い頃はそういう役どころを拒絶したりもしていたのですが、年齢を重ねるとともに、何だって楽しんでやってみたほうがいいという考え方に変わったんです。そして現在に至ります。映画って自由ですよね。でも時代の変化とともに、窮屈になってしまっている部分があるのもたしか。だからその反動で、どこか変わったところのある役のお話をいただくと飛びついてしまいます」

──岡田さんは映画、ドラマ、舞台と、とにかく出演作が絶えませんよね。参加される作品はご自身で吟味されているのですか?

「基本的には脚本を読んでから決めさせていただいています。でもすべてはタイミングかもしれません。たとえば『ドライブ・マイ・カー』(2021年)の脚本を手にしたときは、ちょうど車での長距離移動中だったんです。こういう作品との出会い方もあるのだなと。演技と同じで計算してやっていく面白さももちろんありますが、もっとラフでいいのかなと最近は思っています。それに仕事をするうえで、ちゃんとお休みの期間も設けています。前のめりになるよりも、自分自身のバランスを取っていくことの大切さも実感していますから。これからもいい距離感で仕事に臨み、プライベートも含めて豊かな人生にしたいと考えています」

──最後に、『ゴールド・ボーイ』という作品を経て気づいたことがあれば教えてください。

「座長としての立ち位置がいつもと違ったこともそうですが、東京と沖縄の往復は大変でした。精神面だけでなく、体力的な面も含めていまの自分がどこまでやれるのか。その限界を知るチャンスでもありました。撮影が進むにつれて分かってくることがあったので、この経験はぜひとも今後に活かしていきたいです。それから本作での最大の学びはやはり子どもたちとのお芝居にありました。以前の僕だったら、もっと前に出ていた気がします。でも少し引いたところからあの子たちを見て、どうすれば彼ら彼女らが輝くことができるのかを一番に考えました。これは僕が10代や20代の頃にきっと先輩方がやってくださっていたことで、ようやくそれに気づくことができたんです。お芝居は相手があってこそ。相手が輝けば、自然とこちらも輝くことができると思うんです」

『ゴールド・ボーイ』
監督 / 金子修介
脚本 / 港岳彦
出演 / 岡田将生、黒木華、羽村仁成、星乃あんな、前出燿志、松井玲奈、北村一輝、江口洋介
公開 / TOHOシネマズ 日比谷ほか公開中
©2024 GOLD BOY

それは完全犯罪のはずだった。まさか少年たちに目撃されていたとは……。義父母を崖から突き落とす男の姿を偶然にもカメラでとらえた少年たち。事業家の婿養子である昇(岡田将生)は、ある目的のために犯行に及んだ。一方、少年たちも複雑な家庭環境による貧困や、家族関係の問題を抱えていた。朝陽(羽村仁成)は昇を脅迫して大金を得ようと画策する。殺人犯と少年たちの二転三転する駆け引きの末に待ち受ける結末とは……。

岡田将生
おかだまさき|俳優
1989年8月15日、東京都生まれ。2006年デビュー。近年の出演作に映画『ドライブ・マイ・カー』、『CUBE 一度入ったら、最後』、『1秒先の彼』、『ゆとりですがなにか インターナショナル』、ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(関西テレビ・フジテレビ)、『ザ・トラベルナース』(テレビ朝日)、舞台『物語なき、この世界。』、『ガラスの動物園』などがある。

撮影 / 池村隆司 取材・文 / 折田侑駿 スタイリスト / 大石裕介 ヘアメイク / 小林麗子

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