海老沢七海×道川内蒼「僕らの映画づくりは、傷だらけの轍から始まった」──映画『冗談じゃないよ』『隣のサンズイ』、そして新たなカルチャーへの挑戦 2026.8.4
シネファ presents『Creator Scratch Radio』
コロナ禍という未曾有の停滞期、表現の場を失いかけた若き役者たちはどう立ち上がったのか。
孤独の中で自転車を24時間漕ぎ続け、日本海の荒波の前で涙を流した海老沢七海(えびさわ・ななみ)。かつて野球にすべてを捧げ、やがて舞台の光に魅せられた道川内蒼(みちかわうち・そう)。長編映画『冗談じゃないよ』での鮮烈な出会いを経て、彼らは今、次なる挑戦である『人間モドキの四畳半』、そして短編映画『HEY BOY!』『味噌の壺』へと向かっている。
彼らが語る、泥臭くも愛おしい「表現と組織」のあり方、そして表現者たちが自らカルチャーを拡張するために立ち上げた応援EC「シネファ」への想い。本企画の中心メンバーである二人が、その青い情熱のすべてを語る──。
「あの時、自転車を漕ぎ続けてたどり着いた日本海で大号泣した。こんなところでくすぶっている場合じゃない、自分で代表作を作るんだって」
海老沢七海
「映画だからこその、言葉を超えた繋がりがある。自分が大切にしたい価値観が、映画を通じた出会いを機に明確に変わった」
道川内蒼
暗闇の底で、ペダルを漕ぎ続けた先に広がっていた日本海
シネファ presents『Creator Scratch Radio』
── そもそも、海老沢さんがご自身で映画を企画されるようになった「始まり」には、コロナ禍での大きな葛藤があったそうですね。
海老沢:そうなんです。コロナ前は、映画『青の帰り道』や『ザ・ファブル』、それから『映像研には手を出すな!』といった作品のオーディションを勝ち取って、少しずつ手応えを感じていました。けれど、コロナ禍になって全てが変わってしまった。Netflixの『THE DAYS』という大きな作品の役をいただいたのですが、撮影が完全にストップしてしまって。
── 当時は関係者とのコミュニケーションもあまり得意ではなかったとか。
海老沢:尖っていたんですよね(笑)。実力さえあればいい、みたいに思っていて、誰とも繋がろうとしなかった。そのせいで仕事も完全にゼロになって、当時のマネージャーからは「お前は俳優に向いていない」とまで言われました。2021年の誕生日に、誰からもお祝いのメッセージが来なくて、唯一おめでとうと言ってくれた母親の連絡を見て、部屋で一人で大号泣したんです。
── そこから、どのようにして立ち上がったのでしょうか。
海老沢:このまま引きこもるような人間じゃない、と思って。ちっちゃいショルダーバッグに本と財布、携帯だけ入れて、半袖短パンにサンダルのまま、自転車で「ひたすら上(北)へ行こう」と漕ぎ出したんです。太陽に追いつかれないような速さで、24時間ただただペダルを漕ぎ続けました。力尽きて目の前に広がっていたのが、新潟の日本海でした。そこでまた大号泣して、「こんなところにいる場合じゃない」と思った。弥彦神社にお参りして、いい意味でプラスのエネルギーをもらって帰ってきました。
── それが、映画『冗談じゃないよ』の企画へと繋がったのですね。
海老沢:そうです。東京に戻って、周囲にこの話をしたら「海老沢さん主演でドキュメンタリーを撮ったら面白い」と言ってくれて。だったら「主演で長編でオリジナルで、俺の代表作を作ってくれ!」と日下玉巳さんを始めとした仲間たちに頼み込んで、映画『冗談じゃないよ』が動き始めました。
野性児とイキり、そして運命の出会い
── 一方、道川内さんの生い立ちも非常にユニークですが、どのようなきっかけで役者の道を志したのですか?
道川内:子供の頃は裏山を駆け回って、花の蜜を吸い、木イチゴを食べたりしているような野性児でした(笑)。小学校・中学校とずっと野球をやっていて、テレビドラマの『ROOKIES』に憧れて「野球をやるならヤンキーだろう」と眉毛を剃ったり、イキり散らかした中学時代を過ごしました(笑)。
── 役者を始められたのは20歳を過ぎてからですね。
道川内:20歳の誕生日に、自分が生まれた時間に生まれた病院に行ってみたら、病院がなくなっていて(笑)。その頃、バイト先の女性の旦那さんが出演する舞台を観に行ったんです。それがきっかけとなり、自分も「あっち側(表現する側)に行ってみたい」と思ったのが始まりでした。上京後、映像作品に出演させていただくようになり、映画『隣のサンズイ』へと繋がっていきます。
── お二人の出会いはどのようなものだったのでしょうか。
海老沢:僕らが初めて出会ったのは、『冗談じゃないよ』の前に、共通の役者仲間が渋谷のベローチェにミッチー(道川内さん)を連れてきてくれた時です。
道川内:そうです。でも、その時の僕はなぜかものすごく「死んだ目」をしていたらしくて(笑)。
海老沢:その後、『冗談じゃないよ』のオーディションにミッチーが来た時、僕は「あ、ベローチェの時の道川内くんだ」と思ったんですけど、やっぱり目が死んでいて(笑)。でも、芝居がめちゃくちゃ良かった。僕は「彼がすごくいい」と監督に推したんですが、監督は最初「ちょっと今の彼は」とためらっていたんです。それでも僕の強い希望もあって、次作の『人間モドキの四畳半』に出演が決まりました。
「組織力」でぶつかるインディペンデント映画の熱量
── 映画『冗談じゃないよ』での共演を経て、お二人の関係や役者としての意識に変化はありましたか?
道川内:映画だからこその、“言葉じゃないところでの繋がり”、みたいなものが生まれた気がします。自分の人生における価値観や、大切にしたいものが明確に変わりました。
海老沢:僕にとっても、一番の転換点は『冗談じゃないよ』でした。それまでは個人でどう這い上がるかばかり考えていましたが、この作品を経て、「個の力よりも組織力、集団でぶつかり合うことで大きなパワーを発揮する」と考えるようになったんです。仲間を集めて、みんなで一緒に面白いカルチャーを作っていく。その方がずっと熱いし、やりがいがあることに気づきました。
── 現在は、第2弾 映画『人間モドキの四畳半』の劇場公開に向けて編集中ですね。この作品でも、オーディションに多くの役者が集まったと伺いました。
海老沢:はい。驚いたのは、『冗談じゃないよ』を観てくれた後輩の役者たちが、「あの熱いカルチャーに参加したい」と、SNSに少し映っているだけの情報から『人間モドキの四畳半』のオーディションを受けに来てくれたことです。さらに、今回は残念ながら落選してしまった人たちにも声をかけて、短編映画『HEY BOY!』『味噌の壺』というプロジェクトを立ち上げました。オーディションに310名もの応募があり、160名と直接お会いして、32名を選ばせていただきました。
── 310名から選ばれた32名。キャスティングや脚本、キャラクターへのこだわりが凄まじいですね。
海老沢:選ばれたみんなの良さを伝えるために、僕らが直接インタビューをしに行って、その人たちの魅力を引き出す映像を制作・編集しています。「From 4.5」というクリエイティブチームを立ち上げて、クラウドファンディング期間中にそのインタビュー映像を配信する予定です。ただ映画を撮るだけでなく、そこに関わる人たちの良さを伝えるカルチャーそのものを育てていきたいんです。
「白い灰になるまで」──日々、愚直に一歩を積み重ねる
── お二人が人生や表現において、最も大切にしている信念は何ですか?
道川内:僕は3つあります。1つ目は、父から言われた「白い灰になれ」という言葉。黒い灰で終わるのではなく、全てを燃やし尽くして真っ白になるまで生き抜きなさい、という意味です。2つ目は、「まずい」と言わないこと。誰かが作ってくれた料理や想いに対して、自分の好みではないとしても、その気持ち自体を否定するような言葉は使いたくない。そして3つ目は、最近、妻と富士山に登頂したときに気づいたことです。
── かつて道川内さんを振ったという現在の奥様と、富士山に登られたのですね(笑)。
道川内:そうなんです(笑)。10代の最後に振られた彼女と、20代の最後に結婚して富士山に登ってきました。富士山の登山って、本当に靴の幅くらいの小さな歩幅でしか進めないんです。でも、歩き続けていれば頂上にたどり着く。どんなに小さな一歩でも、日々積み重ねていくことが大事なんだと思いました。
── 海老沢さんはいかがですか?
海老沢:僕は最近、「絆」という言葉についてよく考えています。赤い糸の「糸」は、誰もが自分の半分を持っている。それを相手と繋げよう、絆を深めようとする「お互いの努力」を半分ずつ出し合って初めて、本当の絆になるんだと思っています。今の仲間たちと、その絆を育んでいきたいですね。
── これからのお二人の「将来の夢」を教えてください。
道川内:僕は、仕事とプライベートを分けることなくどちらも大切にしながら、自分の人生を豊かに重ねていきたいです。真っ白な灰になれるような、良い人生だったと思える日々を送りたいですね。
海老沢:僕は、自分たちと同じように何もないところから這い上がってきた仲間たち、現場で切磋琢磨してきた本当に信頼できる役者たちが審査員を務める、新しい映画祭を開きたいと思っています。0から1を作った人たちが肉眼で評価し、優勝者には100万円を渡すような、夢のある泥臭い映画祭です。オープニングに『冗談じゃないよ』、クロージングに『人間モドキの四畳半』を上映して、その間に僕たちが作った短編や『隣のサンズイ』なんかを流せたら最高ですね。2〜3年後には絶対に実現させます。
ゲスト登場──映画『いとしのしおり』チームからのメッセージ
── そして本日は、「シネファ」で現在クラウドファンディングに挑戦中の映画『いとしのしおり』から、二宮絵梨香さん、渡邉りか子さん、篠崎健人さんも急遽駆けつけてくださいました。
二宮:初めまして、映画『いとしのしおり』で企画・脚本・監督・主演を務める二宮絵梨香です。本作は私自身の実体験をベースにした、福岡の大学を舞台にした作品です。自分を愛せない主人公のしおりが、同級生との出会いを通じて少しずつ変わっていく成長物語を描いています。
── すでにクラウドファンディングの目標金額を達成されたそうですね。
二宮:はい! おかげさまで第一目標の150万円を達成し、現在はストレッチゴールである250万円に向けて挑戦を続けています。7月28日に福岡でクランクインを控えており、素晴らしい作品をお届けできるよう全力を尽くしていますので、ぜひ応援をよろしくお願いします。
海老沢:二宮さんも本気で映画と向き合っている、素晴らしい表現者です。僕たちの『人間モドキの四畳半』、そして短編『HEY BOY!』『味噌の壺』のクラウドファンディングと併せて、ぜひ「シネファ」で進行中のプロジェクトをチェックして、インディペンデント映画の熱いカルチャーを一緒に盛り上げていただけたら嬉しいです。
彼らの歩みは、泥臭くも、常に他者との「絆」を信じるものだった。24時間自転車を漕ぎ続けたその先にあった日本海のように、彼らの目の前には、未だ見ぬ新しい映画カルチャーの海が広がっている。
お互いに糸を半分ずつ持ち寄り、紡ぎ出される彼らの映画。その真っ白な灰になるほどの情熱を、あなたも一緒に目撃してみてはいかがだろうか。
表現者が、表現者のために作る信頼の場所「シネファ」
その夢を実現するための足がかりとして、応援EC「シネファ」を活用。シネファでは既存のサービスとは異なり、掲載手数料0%(手数料はお客様支援の際に10%上乗せ)、制作者が作品づくりに集中できるように、リターンの発送代行なども行っています。単なる資金調達のツールではなく、「信頼」を繋ぐ場所を目指します。
作品リンク
- 『人間モドキの四畳半』(監督:海老沢七海):
https://cinefa.terraceside.jp/projects/7 - 短編『HEY BOY!』『味噌の壺』(監督:海老沢七海):
https://genicpress.com/2175660/ - 『冗談じゃないよ』(企画・主演:海老沢七海/監督:日下玉巳):
https://joudanjanaiyo.com/ - 『隣のサンズイ』(監督・主演:道川内蒼):
https://www.1st-generation.com/?p=31807
プロフィール
海老沢七海(えびさわ・ななみ)/ 俳優
1992年生まれ、千葉県出身。2024年、企画・主演した映画『冗談じゃないよ』(日下玉巳監督)が TAMA NEW WAVE ある視点部門ノミネート、第15回日本映像グランプリ 脚本賞を受賞し、テアトル新宿にて公開された。主な出演映画作品に『青の帰り道』(18・藤井道人監督)、『ザ・ファブル』(19・江口カン監督)、『サイレントラブ』(24・内田英治監督)などがある。
道川内蒼(みちかわうち・そう)/ 俳優・監督
1996年生まれ、愛知県出身。初監督・主演を務めた映画『隣のサンズイ』では、はままつ映画祭2023 大賞、第8回杉並ヒーロー映画祭 観客賞、第22回中之島映画祭 優秀賞、第22回うえだ城下町映画祭 ノミネート。池袋シネマ・ロサで公開された。今後の公開待機作として、映画『人間モドキの四畳半』(監督:海老沢七海)などがある。
イベント情報
シネファ presents『Creator Scratch Radio』
ゼロから何かをつくる人の“はじまり”や“想い”を聞いていくラジオ。映画を中心に、音楽やアートなどジャンル問わず、クリエイターの方をゲストにお迎えして、企画のスタートから作品に込めた想いまで、楽しく掘り下げていきます。今後も多彩なゲストをお呼びして、不定期開催予定。
リンク
- シネファ 掲載手数料0%、発送代行可能のエンタメに特化したクラウドファンディング:
https://cinefa.terraceside.jp/