女の子になりたい男の子が家族をひとつにする 映画『大阪ハムレット』 2021.2.23


高柳明音さんが、インディーズ映画にふれながら、その魅力を伝えていくコーナー。今回は森下裕美さんのコミックが原作の『大阪ハムレット』にフィーチャーします。ハムレットの名がつくだけあって悲劇だけれど、暖かい気持ちになれる本作。高柳さんの小学生時代の思い出もお聞きできました。
【あらすじ】
大阪の下町で暮らす久保家。3人の息子を抱え、一家の大黒柱となっているのは、働き者のお母ちゃん。お父ちゃんが突然亡くなり、四十九日も済まないうちに、お父ちゃんの弟と名乗る叔父さんが転がり込んで来て…。中3の長男は、恋する年上のファザコン女性に「私のお父ちゃんになってほしい」と言われ困惑する。ヤンキーの次男は自分の顔がお父ちゃんに似てないことに気づき、家族と人生について悩みだす。小学生の三男は、将来の夢を聞かれ、「女の子になりたい」と大宣言…。

本作『大阪ハムレット』は、とある家族に次々と問題が起きてしまう悲劇ながら、独特のテンポと音楽でほっこりできちゃう名作でしたね。高柳さんは、なぜ見ようと思われたのでしょうか?

一昨年にSKEの舞台で「ハムレット」をしたことがあり、原作にふれていたことも大きいです。この作品はタイトルに「大阪」と入っていることや、かなり日本的にアレンジされていることに惹かれて選びました。

シェイクスピアのハムレットは復讐劇ですが、本作は違いますよね。悲劇という点では通じるものがありますが。

そうですね。元のハムレットを知っていると、より楽しめる要素があると思いますが、悲劇だから見ないというのはもったいないほど家族愛の映画でした。

予告編でも見ることができますが、父親が亡くなってすぐに知らない「おっちゃん」が一緒に住むようになり、末っ子の男の子が「女の子になりたい」と宣言する急展開からスタートしますよね。

大きなところではその2つですが、他にもどんどん問題が出てきて…。笑
実は、この作品を見て思い出したんですけど、私、小学生の時、男の子になりたいと思ったことがあって…

えっ!? まさに本作のような展開ですね。

幼心なので、暖かい気持ちで聞いていただけたらと思うのですが、ちょっとした事件がきっかけなのです。
名古屋の田舎で、小さい頃は木登りをして遊んだりしていました。ある日、白いワンピースを着ていつもどおりに木登りしていたら足をすべらせてしまって…。
背中のどこかが枝に引っかかって、ビリビリに破けた状態で宙吊りになってしまったんです。

ビリビリの宙吊り…!

そこには男の子も女の子もいて、パンツ丸見えになっている私をみんなが見ていました。近くの大人に助けてもらったんですけど、こんな目にあうなら「もうスカートなんて履かない!」って思いました。着ていたのはワンピースなんですけど。笑
それがトラウマで、スカートを履きたくないという理由から女の子が嫌になった時期があったことを思い出しました。

強烈な恥ずかし体験をお話いただきありがとうございます。対照的に、本作の末っ子は可愛いお洋服を来ている叔母に影響を受けて女の子になりたいと言い出しますよね。

好きなことをして、好きな服を着る姿が素敵で楽しそうでしたからね、憧れるのも無理はないと思います。
そして女の子になりたいという末っ子を、お母さんも叔母も否定しなかったことが素敵でした。

末っ子だけでなく、この家族にはいろんなことが起きるというか、問題を抱えていますが、それについてはどうでしょうか?

もし自分の身に起きたらと考えると、ちょっと受け止めきれないと思います。笑
お父さんが亡くなって、知らないおじさんと住むことになるだけでも「えっ」と思ってしまいますし…。長男は老け顔で悩み、それが元で大学生との恋が、次男のヤンキーは思春期特有の悩みにプラスして、おっちゃんと末っ子のことで気を病まなくていけず…。
松坂慶子さん演じるお母さんでなければつぶれちゃうなと。

テンポと音楽で助けられますけど、冷静に見るとかなりの悲劇ですよね。印象的なシーンとして、長男と次男が海辺で「しょうもないな」と言い合うところがあります。あのシーンではどんなことを思われましたか?

二人とも中学生の多感な時期で、これまでお互いのことをあまり話してこなかったはずなのに、お母さんのこと、急に現れたおっちゃんのこと、そして女の子になりたいと言う末っ子のことをきっかけに、兄弟で一緒に乗り越えていかなくちゃという一体感、絆が見えた瞬間でした。
照れ隠しで「しょうもないな」と言っていたのかもしれないですね。

そんな兄弟の絆もありつつ、後半に行くにつれて少しずつですが、良い流れになっていきます。私は「とにかく幸せになって…」と思って見ていましたが、ラストまでどんなお気持ちでしたでしょうか?

元はバラバラだった家族が、末っ子のことで一つになろうとしている様子はとても良かったです。全編を通して「普通とは何?」が描かれている気がして、考えてみると、こういう家族のカタチもあるのかもと思わせてくれました。
みんなが家に帰ってきてから「今日はこんなことがあって」と思い出話をしているところが見えた気がします。

確かにそうですね。普通にきまりはないと教えてくれる、そんな作品だと私も思います。
最後に、本作をどんな方に見てほしいでしょうか?

家族にはいろんなカタチがあると気づかせてくれる作品です。人の数だけ家族があって、そこにはいろいろなストーリーがある。幸せな家族もあれば、ちょっと大変な家族もある。
この作品を通して、自分の子ども時代を思い出したり、自分の中に隠れていた感情に気がついたり、それらを本作が肯定してくれるのではないかと思います。
©2008 「大阪ハムレット」 製作委員会