大東駿介インタビュー!日常を保つことすら難しい時代からこそ、変わり続けることが大切

テラスマガジン編集部

作家・佐藤泰志の小説が五度目の映画化。『草の響き』で主人公を支える友を演じるのは大東駿介。作中、唯一の救いとも言える難役にどう向き合ったのか。コロナ禍における大東自身の考え、価値観、これからの映画に対する思いを語ってもらった。

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『草の響き』あらすじ
心に失調をきたし、妻とふたりで故郷函館へ戻ってきた和雄。病院の精神科を訪れた彼は、医師に勧められるまま、治療のため街を走り始める。雨の日も、真夏の日も、ひたすら同じ道を走り、記録をつける。そのくりかえしのなかで、和雄の心はやがて平穏を見出していく。そんななか、彼は路上で出会った若者たちとふしぎな交流を持ち始めるが…

――今作『草の響き』の登場人物は、誰もが孤独と葛藤を抱えています。その中で、唯一の希望とも言える役にどう向き合ったのでしょうか?

「監督からは、とにかく救いであってほしいと繰り返し言われていました。久しぶりに再会した友に対して、かつてのように、ただあの時のように接してほしいと。これは自分でも意識しました。気を遣う行為は、実はすごく紙一重だと思いますし、気を遣われていると感じると余計に辛いこともあるじゃないですか。だからこそ距離感を意識しながら役と向き合っていきました」

――大東さんご自身は孤独に対して向き合う、受け入れるにはどうすると良いと思っていますか?

「今は日常を保つことすら難しい時代ですよね。だから僕の考えとしては、変化していくことかなと。孤独に潰されそうなのは立ち止まっているからなので、だったら今、どう進むべきか常に前を見ていくしかない時代なのかな、と思いますね。こんなことを言いながらも、僕も寝る前に地面が沈んでいくような感覚に陥ることはあります。でも、どうにか一歩を踏み出すために変化していくことが大切だなと」

――本作の撮影中にも感じたことはあったのでしょうか。

「例えば今回は函館での撮影でしたが、窓を開けると大自然が広がっている。それだけで救われたことがあって。東京にいると考えなくてはいけないことが多すぎて、余白が見つけづらいといつも思うんです。でもこれって函館の人からすると東京の街が救ってくれることもあるわけで、だからこそ変化して進むことが一つの答えになると思ってます」

――本作では主人公の友であり、仕事は学校教師という責任の多い仕事でしたが、大東さんは仕事、遊び、またそれ以外も含めて何を大切にされていますか?

「全部ですね!(笑) 特に新しいことにチャレンジするのが本当に楽しいですね。好きなことも、次の好きを積極的に探しにいってます。ひとつだけだと失くなったときに悲しいじゃないですか。あれもこれも好きでいい、それが今の自分の息抜きですね」

――プライベートでは3人のお子さんがいらっしゃいますが、お子さんがあれもこれもやってみたいと言ったらどうでしょうか。

「むしろめっちゃありがたいです(笑) 3人それぞれやりたいことが違いますし、もちろん僕も違う。それが全部楽しくて、仕事でも同じだなと。監督のアイデアが自分のものと違っていたとしても、こういう考えも確かにあるなと以前より思えるようになりましたから。これまでは確固たる1つを大事にしがちでした。でも今は“団体戦”という思いです。」

――団体戦!? どういうことでしょうか?

「好きなことを1つだけじゃなくて、いくつもするイメージと言いますか。例えば最近ではアウトドアを楽しみたくなって、でも絵も描きたくなって、自然の中で何も見ずに全く関係のない絵を描きました。結果として、外に行ったし、絵も描いたし、団体戦としては楽しかったな、と」

――みんなの意見を汲んで、最終的に帳尻を合わせるような?

「物事って、悪く考えようとしたらいくらでも悪く考えられると思うんです。本当は山にも行きたかったし、海にも行きたかったのに、やりたいことが多すぎて、結局は何もできなかったとか。一見すると1日を無駄にした、負けたように思えるかもしれないけど、ドライブの時間は楽しかったじゃないかと思えたら変わってきますよね」

――チームの中で良かったことを探すイメージですね。

「そうです。団体戦であれば、誰かがミスをしても頑張ってきた姿や手を抜いていなかった気持ちを汲めたら、背中を叩けるじゃないですか。他にも、もし悲しいことが起きたら、楽しいことを10個用意して対応するとか、仕事に行きたくないときは、行きたくなるようなことを3つでもいいからとにかく用意して挑む。気持ちの団体戦、おすすめします(笑)」

――『草の響き』はどのような方に見ていただきたいですか?

「本作の主人公を含めて、今の時代は自分を責めたり追い詰めてしまったり、目の前のあるものをちゃんと受け止めづらくなっていると思います。この映画がその肩の重荷を少しでも背負ってくれるといいなと願っています。痛みを持って、心を軽くしてくれる作品です」

――映画が背負ってくれる。とても素敵な言葉だと思います。映画が救ってくれることってありますよね。

「映画だけでなく、“映画体験”を生み出してみたいと思っています。子どもの頃って、映画を見に行く前日からワクワクして、劇場に入るまでの暗がりにすごくドキドキしましたよね。それも含めて映画だと思うんですよ。その映画体験を、今の年齢になって、大人になってからも当たり前にできるようにしたいです」

――映画体験を作っていきたいということでしょうか?

「コロナが収束してもう少し自由になったら、映画館という仕組みをもう少し広げられたら面白いのではないかと思っています。“あの映画どうだった?”という会話から“どうやって観るのが良かった?”と映画の鑑賞体験を大喜利のように話し合えたら理想ですね」

――舞台挨拶とはまた違う、映画を鑑賞する前後のお楽しみトークなども面白そうですね。

「そうです、そうです! 司会者が“どうしてこの作品を観ようと思いましたか?”と聞いちゃうとか。ただ映画だけを観るのも立派な体験なのですが、忘れられない思い出をつくり、もっと映画を好きになってもらう。このあたり、企画書持ち込みますのでぜひ相談させてください(笑)」

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『草の響き』作品情報

©2021 HAKODATE CINEMA IRIS

『草の響き』
監督 / 斎藤久志 出演 / 東出昌大、奈緒、大東駿介、Kaya、林裕太、三根有葵、室井滋
公開 / 10月8日(金)より新宿武蔵野館・ヒューマントラストシネマ有楽町/渋谷 他
© 2021 HAKODATE CINEMA IRIS

撮影 / 角戸菜摘 スタイリスト / 山川恵未 ヘアメイク / 染川敬子(TOKYO LOGIC) 文 / 永井勇成 衣装 / ロングシャツ¥30800/CONTROLLA+ (Sian PR)、花柄ブルゾン¥39600、花柄パンツ¥28600/ともにOURET (Sian PR)〈問い合わせ先〉Sian PR 03-6662-5525

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