【神尾楓珠 インタビュー!】彼に恥じない生き方をしなければならないと思っています『20歳のソウル』 2022.5.8

市立船橋高校、吹奏楽部の応援曲「市船soul」の生みの親である浅野大義さんの人生を描いた『20歳のソウル』。「大きなプレッシャーや責任感があった」と口にする神尾楓珠は、本作にどのように取り組んだのか。演じる役にかけた想いや撮影現場でのエピソードなどを大いに語ってもらった。
神尾楓珠「大義くんの役を演じた者として、彼に恥じない生き方をしなければならないと思っています」
──本作は、千葉・市立船橋高校吹奏楽部によるチャンステーマ「市船soul」の生みの親であり、20歳という若さでこの世を去った浅野大義さんの生き様を描いています。出演が決まった際はどんな気持ちでしたか?
「僕の父が船橋の出身で、僕自身も幼少期を船橋で過ごした経験があります。なのでお話をいただいた際は、何かご縁のようなものを感じました。そうして脚本を手にしてまず思ったのが、本作は“王道の青春映画”だということです。若者たちのまぶしい時間が刻まれているんです。この仕事をやっているからには、一度はこういった青春模様を力強く描いた世界に飛び込んでみたい気持ちがありました。ただ、これが実話であるということを知り、純粋に主演を務めることとはまた違う大きなプレッシャーや責任感があったのも事実です」
©2022「20歳のソウル」製作委員会
──浅野大義というキャラクターの印象についてはいかがでしたか?
「明るくて、熱くて、真っ直ぐで。とても“主人公感”の強い人物だと感じました。これらの要素は大義くん自身のパーソナリティだと思うので、キャラクターの軸として大切にしつつ、そのうえで後半に描かれる闘病生活のパートにも臨むべきだと思いました。脚本を手にした段階で具体的な演技プランまで考えていたわけではありませんが、画は浮かびました。ですが、闘病生活を送る人物を演じたことはこれまでありませんでしたし、正直なところ僕に演じられるのか不安は大きかったです」
──神尾さんにとって浅野大義というキャラクターは、さまざまな点で特別だったのですね。
「これまで演じてきた役と、大義という役は全然違います。もちろん、役を演じることに関しては、どの作品でも強い責任感を持って臨んでいます。けれどもこの役は、浅野大義さんのご家族をはじめ、多くの方の想いを背に感じながら演じなければなりません。青春映画ではありますが、楽しむ気持ちだけでは大義くんの生き様をスクリーンに刻むことはできない。大義くんは、いまも「市船soul」とともに生きている人です。この作品に取り組むうえで、そして大義という役を演じるうえで一番大切にしたのは、やはり大義くんへのリスペクト。これは監督の秋山さんとの共通認識でもありました。それと音楽に対する情熱です。僕自身も音楽が大好きなので、この軸をブレさせないことが大前提でした。仲間たちと楽しむ姿は自分なりに解釈して、与えられた範囲内で楽しみましたね」
©2022「20歳のソウル」製作委員会
──友人役を演じた佐野晶哉さん、前田航基さん、若林時英さん、そして高橋先生役の佐藤浩市さんとの共演はいかがでしたか?
「本当に三年間一緒に過ごしたような感覚でした。特に航基と時英は過去に共演した経験もあったので、すぐに楽しい空気感を作ることができました。晶哉とはこれが初対面で、最初はどう接したらいいものか考えましたし、彼も彼ですごく気を遣ってくれているのを感じました。ですがそれこそ、僕らを繋いだのが音楽なんです。音楽を通して、僕たちも友情を築くことができました。僕ら自身のキャラクターや関係性が、演じる役と近かったんです。佐藤さんに関しては、やはり存在感がすごいです。あの方がいるだけで現場が締まる印象があります。佐藤さんが演じた高橋先生にも実際にお会いしたのですが、同じようなカリスマ性を感じました。大義は高橋先生のことを“雲の上の人”と称していますが、僕にとっての佐藤さんもまさにそう。やっぱり目の前にすると緊張しちゃうんです。でも、佐藤さんの発する空気に怖気づいたら何もできないので、“思いっきりやろう!”とみんなで話し合っていましたね。ここでも仲間たちの存在が大きかったです」
──本作のテーマの一つに“挑戦”というものがあると思います。神尾さん自身にとっての挑戦とは何でしょう?
「この仕事は何もかもが挑戦の連続です。演じたことのない役や、自分自身が経験したことのないものを表現しなければなりません。僕はいつも、幅のある俳優でありたいと思っています。似たような役が続いたとしても、一つとして同じ役はありません。作品ごとに“新しい顔”を見せられるように、役と役の間にあるはずの違いを繊細に演じられる俳優でありたいと思っています。本作も挑戦だらけでしたが、大義が過ごす時間軸に沿っての順撮りだったので、現場で重ねる時間が演じるうえでの手がかりになりました。そしてやっぱり、トロンボーンは難しかったですね……。市船の吹奏楽部の方々が撮影に参加してくださり、分からないことは教えてもらいながら取り組むことができました。猛特訓して臨みましたが、実際に演奏をされる方の目にどう映るのか不安です。(苦笑) 演じる環境にはとても恵まれていたと思います」
──164人の吹奏楽部員が集まって「市船soul」を演奏するクライマックスが圧巻です。
「本当に素晴らしいクライマックスだと感じています。僕はあのシーンの撮影に立ち会えていないので、試写の際に初めて目にしました。いち観客として観て純粋に感動しましたし、演じた浅野大義としては、自分が生きてきた20年間は間違っていなかったのだと確信できた瞬間でした。大義くんがどれだけ愛されていたのかがダイレクトに伝わってくるシーンです」
©2022「20歳のソウル」製作委員会
──本作を通して得られたものは何でしょうか?
「僕自身、大義くんが見舞われたような状況に直面したことはありません。“一日一日が神様からの贈り物”というセリフが劇中にありますが、本当にそうだと思います。何不自由なく日々を過ごしていると、そんな当たり前のことにもなかなか気づくことができません。一日一日を大切にすること、そして自分の好きなものに情熱を注ぐことは、人生において非常に重要なのだと改めて噛み締めているところです。大義くんがすごく真っ直ぐに生きていた人だというのは、この映画を観ていただければ伝わると思います。大義くんの役を演じた者として、彼に恥じない生き方をしなければならないと思っています」
神尾楓珠
かみおふうじゅ|俳優
1999年1月21日生まれ。東京都出身。2015年、ドラマ「母さん、俺は大丈夫」で俳優デビュー。映画『兄に愛されすぎて困ってます』でスクリーンデビューし、その後もドラマ「3年A組 ―今から皆さんは、人質です―」など、話題作に出演し注目を集める。その他の出演作に『HiGH&LOW THE WORST』、『私がモテてどうすんだ』、『親密な他人』など。公開待機作に小林啓一監督の『恋は光』がある。
©2022「20歳のソウル」製作委員会
『20歳のソウル』
監督 / 秋山純
原作・脚本 / 中井由梨子
出演 / 神尾楓珠、尾野真千子、福本莉子、佐野晶哉 佐藤浩市 他
公開 / 5月27日(金)より全国ロードショー
©2022「20歳のソウル」製作委員会
撮影 / 堀弥生
取材・文 / 折田侑駿
ヘアメイク / 内藤歩
スタイリスト / 杉本学子(WHITNEY)
衣装 / プルオーバー ¥8,800、パンツ¥20,900 ともにUNITED TOKYO / シューズ、ソックス スタイリスト私物