日高七海×外山文治─努力すれば想いは形になっていく

外山文治

 日高七海はこの数年の独立系映画を鮮やかに彩ってきた女優のひとりだ。

 彼女の放つエネルギーはオリジナリティに溢れ、印象的で、同年代が集う群像劇の中でも決して埋もれることがない。『獣道』『左様なら』『無限ファンデーション』『幕が下りたら会いましょう』『銀平町シネマブルース』など毎年スクリーンで彼女の活躍を観ることができる、もはや映画界に欠かせない存在である。

 私が日高七海と知り合ったのは六年ほど前のことで、当時は芸能事務所に所属していなかったはずだ。「思い出した、外山さんが事務所に出すプロフィールを作ってくれたんですよ」とお互い少しの昔話を懐かしんだ。

 「学生時代、家に緒形拳さんの作品があったんです。それを観て映画が好きになって役者の道を考え始めました。でも親は教師か公務員かピアニストにさせたかったみたいですね」

 出身地・宮崎県の保守的な文化も影響するのだろうか、芸能への道を反対された彼女は東京に出るために大学への進学を選んだ。ところがいざ上京すると、芸能界への漠然とした不安に彼女は真っ直ぐに俳優業に向かうことを躊躇い、卒業が間近になると流されるままに就職活動を始めて幾つかの内定を得たという。

 「私って『流され人生』なんですよ。でもこのまま就職すると上京した意味が変わってしまうじゃんって。シネマプランナーズでオーディションを探して、ニューシネマワークショップの自主映画に参加したんです。そこから頑張ってみようと思いました」

 自主映画の出演ひとつで、彼女は内定していた企業をすべて蹴った。しかしそこからのキャリアは順調ではなかった。「今もぜんぶ地道にやってます」と本人も認めるように、ひたすら点を線に繋げていくための日々が続く。やがて彼女の努力と独特な佇まいが功を奏して、次第にオーディションで落選しても別の役を与えられるようになり、その活動の輪が広がっていくようになった。数年前から私も彼女がよく舞台挨拶に登壇している印象を持つようになった。コンスタントに活躍している空気感がこの世界では大事だ。光っているものに人間の目は向かう。自ずと彼女の出演作は増え、インディペンデント界に欠かせない存在になっていった。

 2019年、故郷の宮﨑キネマ館で彼女の出演作の特集上映が行われた。家族はもう誰も反対していなかった。サイン会に父親が大きな花束を持って並んでくれていた。両親が離婚して父とは長らく会えていなかったから、彼女自身も驚いたという。

 「恥ずかしかった。感動じゃなくてね。ふたりで『おっ』って挨拶しました。向こうも『頑張ってください』とそっけない感じになって私も『あ、ありがとうございます』って言って。ホテルに帰っても気持ちがモヤモヤしてたから子供の頃に覚えた父の電話番号に電話してみたら繋がったんですよ。そこで話しました。こういうこともあるんだなって。泣き笑いでした」

 映画が家族を繋ぐこともある。努力すれば想いは形になっていく。一歩ずつ映画にあしあとをつけていく彼女に私はこれからの目標を聞いてみた。

 「お母さんの役をやってみたいです。家族って小さな世界や宗教のようにも思える。まだ母親役は経験がないからやってみたいんです。そして妹に喜んで欲しい。私は色んな出来事も家族の困難も、妹と乗り越えてきたから」

 日高七海の活躍を私たちはいつも応援している。

外山文治
そとやまぶんじ|映画監督
1980年9月25日、福岡県生まれ宮崎県育ち。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。2023年公開の最新作『茶飲友達』は都内1館のスタートから全国80館以上に拡大公開され話題となる。

日高七海
ひだかななみ|俳優
1991年4月28日生まれ、宮崎県出身。2014年に初主演を務めた自主映画『こんな女友達はイヤだ』をきかっけに俳優活動をスタートさせ、以降、ドラマや映画で活躍。映画『ステップ』、『幕が下りたら会いましょう』、『銀平町シネマブルース』などに出演したほか、藤原さくらとのポッドキャスト番組『今ファミレスにいるんだけど隣の席の女子が話してる内容がジワジワきてるんだが共有してもいいですか?』が配信中。

撮影・文 / 外山文治

外山文治 映画監督

1980年9月25日生まれ。福岡県出身。短編映画『此の岸のこと』が海外の映画祭で多数上映。長編映画監督デビュー作『燦燦ーさんさんー』で「モントリオール世界映画祭2014」より正式招待を受ける。2020年、豊原功補、小泉今日子によるプロデュース映画『ソワレ』を公開。「第25回釜山国際映画祭」【アジア映画の窓】部門に正式出品される。

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