唐田えりか×芋生悠、自然体で役を生きた『朝がくるとむなしくなる』 2023.12.13

主演に唐田えりか、共演に芋生悠を迎えた『朝がくるとむなしくなる』。石橋夕帆監督の最新作である本作は、慌ただしい社会生活の中で立ち止まってしまった主人公が、ゆるやかに変化していくさまを映し出したもの。もともと友人関係にある唐田と芋生は、この初共演をどのように捉えたのか。撮影の裏側について語ってもらった。
友人同士の二人が初共演を果たした企画のはじまり
唐田「石橋さんのオリジナル脚本で映画を作るという企画があるということで、そこで石橋さんが私を選んでくださったのがはじまりです。まだ脚本もできる前の段階で石橋さんとお会いして、いろいろとお話をしました。そうしてやがて当て書きしてくださった脚本が生まれたんです。芋ちゃん(芋生)とはプライベートでは仲良しですが、一緒にお仕事をするのはこれが初めて。この関係性で、この脚本で、この座組で共演できることが楽しみでした」
芋生「私はこれまでに(石橋)夕帆さんの作品に参加した経験があって、プライベートでもお会いする関係です。彼女に会うたびに私は、友人である唐ちゃん(唐田)の話をしていました。それらが本作の着想につながっていると思います。私たちの関係性ありきで夕帆さんの新しい映画が生まれることがすごく嬉しかったですね」
当て書きによって生まれた物語
唐田「何か大きな出来事が起こるわけではないけれど、そんな中でもほんの少しずつ物事は変化していきます。普段は見落としがちなことにこそ眼差しを向けていて、よく見えなかったものがしだいに見えてくる。なかなか気づくことのできない日常生活の中の小さなありがたみや、愛情が感じられる、とても優しいお話だと思いました」
芋生「たとえば学生時代のようにまだ幼い頃って、なかなか自分では他者との縁を選べなかったりしますよね。でもその中でも特別な何かを感じる存在が誰しもあるのではないかと思います。そんな存在と大人になって再会して、学生時代には分かち合えなかったものを分かち合えるようになったりもする。会っていない時間のうちにお互いすごく変化していて、どちらかが与えるだけでなく、互いに与え合うことができる。私はこの物語を自分事として捉えていました」
希と加奈子
唐田「私には私のいろんな面があるとはいえ、やっぱり当て書きしていただいているので、希には近いものを感じました。私が芋ちゃんに対してそうであるように、希が加奈子にだけ心を許しているところなどまさにそうです。彼女は自分にフタをしているところのある人物なので、演じるうえでは対峙する相手の目を見れないようなところから、だんだんと向き合えるようになっていくさまを表現できればと考えていました」
芋生「加奈子は自分の中で大事にしている存在だったり、特別視している存在が明確にある人。希のような大切な存在に対しては、かける言葉のすべてが優しいし、気遣って明るく接するときもあれば、茶化すことなく真剣に向き合うこともあります。希のことを本当に真っ直ぐ見ている人なんです」
念願の初共演
唐田「芋ちゃんは本当に仲の良い友達なので、一緒にお芝居することに照れくさい気持ちになるんじゃないかと思っていたのですが、意外とそうでもありませんでした。物語上の立ち位置が大きく違えば現場での心持ちも違ったかもしれません。でも、私たちの関係性ありきで、希と加奈子を演じています。しかも石橋さんが紡ぐ、人生で立ち止まってしまった人々の優しい物語の中で。こんな幸福な環境の中だったからこそ、芋ちゃんと一緒に自然体で役を生きることができました」
芋生「やっと一緒にお芝居をしてみて、やっぱりいい役者さんだなと実感しましたね。希と加奈子としてやり取りをしている中で、痺れる瞬間が何度もありました。彼女は自身の生き様がお芝居に出るんです。この作品をとおしてより一層、唐ちゃんのことが好きになりました。特に印象に残っているのが、クライマックスの希と加奈子の重要なシーンでのこと。私はどうしても希として存在する唐ちゃんを前にすると涙を堪えられませんでした。でもそれは私自身の感情であって、ここで加奈子が泣いてしまうと物語上の関係性が崩れてしまう。私と唐ちゃんの関係性だったからこそ起きたことです」
本作を経て得た気づき
唐田「過ぎていく日々の中で、あまりに近くて見えなくなっているものや、見ないようにしているもの、目にしたはずなのに忘れてしまっているものが誰しもあると思います。すぐそばに支えてくれる人がいることのありがたみや、誰かからの愛情を私は忘れないでいたい。普段から思っていたことではありますが、本作を経てよりこの気持ちが強くなりました。大切なものがそばにある実感は、のちの自分にとって救いになることもあるはず。大切なものは大切だと言える人間でありたいです」
芋生「みんなそれぞれに何かしら抱えていますから、生きづらさというのもそれぞれ違いますよね。自分の持つ価値観を他者の基準に合わせてしまって、それで自らを苦しめている人もいると思います。希に手を差し伸べた加奈子は、心を開放した希からももらうものがあります。お互いが救済し合うんです。大人になるにつれ人間同士の心には距離が生まれますが、一度立ち止まって歩み寄り、向き合ってみると、他者だけでなく自分自身をも救うことにつながるのではないでしょうか」
『朝がくるとむなしくなる』
監督・脚本 / 石橋夕帆
出演 / 唐田えりか、芋生悠、石橋和磨、安倍乙、中山雄斗、矢柴俊博
公開 / 渋谷シネクイントほかにて公開中
©Ippo
会社を辞めた飯塚希(唐田えりか)はコンビニでアルバイトをしていた。現状を親にも言えず、バイト先でもなかなかうまくできず、日々、肩身の狭い思いをしていたある日、中学時代のクラスメイト・大友加奈子(芋生悠)がバイト先にやって来る。加奈子との偶然の再会で、希の日常が少しずつ動き出していく……。
唐田えりか
からたえりか|俳優
1997年9月19日、千葉県生まれ。2015年にドラマ『恋仲』(フジテレビ系)でデビューし、ドラマ『トドメの接吻』(日本テレビ系)『凪のお暇』(TBS系)などに出演したほか、韓国Netflixドラマ『アスダル年代記』にも出演。ヒロインを演じた映画『寝ても覚めても』が第71回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門の参加作品に選ばれた。メインキャストとして出演するNetflixシリーズ『極悪女王』が2024年配信予定。
芋生悠
いもうはるか|俳優
1997年12月18日、熊本県生まれ。2020年公開の主演映画『ソワレ』で注目され、映画やドラマ、舞台、CM と幅広く活躍。映画『37セカンズ』、『ひらいて』、『左様なら』などに出演。
撮影 / 池村隆司 取材・文 / 折田侑駿 スタイリスト / 小宮山芽以 ヘアメイク / 尾曲いずみ
衣装 / 唐田えりか ブラウス:Eimee Low(chelsea)、ワンピース:AS KNOW AS PINKY
芋生悠 ニット、ビスチェ:Eimee Low(chelsea)、パンツ:CHIGNON(chelsea)、靴:CAMPER