毎熊克哉さん×大西礼芳 対談前編 - 『安楽死特区』で2作目の共演

毎熊克哉

 毎熊克哉による連載「毎熊克哉 映画と、出会い」に、俳優の大西礼芳が登場。ふたりは『初級演技レッスン』で初共演を果たし、高橋伴明監督の最新作『安楽死特区』でも特別な関係性を演じている。

 本作は、「安楽死法案」が可決された近未来の日本を舞台としたヒューマンドラマ。難病により余命宣告されたラッパー・酒匂章太郎と、そのパートナーでジャーナリストの藤岡歩の関係を中心に、“安楽死”をめぐる物語が展開していく。

 この対談の「前編」では、ふたりの“出会い”にフォーカス。演じるうえで何を大切にし、特別な関係性を築き上げていったのか。しだいにその素顔が見えてきた──。

いろんなことに気を遣う人だけど、自分の世界を持っている。そんな印象です。──毎熊克哉

毎熊さんは目の奥が優しい。相手のことを否定せず、全部を受け止めてくれる。──大西礼芳

──『初級演技レッスン』に続いての共演になりましたね。まずはおふたりの“出会い”についてお聞きしたいです。

毎熊:大西さんのことはいろんな作品で観ていて、個人的にすごく好きな俳優さんだったんです。だから共演できるとなったときには嬉しかったですね。しかもこうして2作も続くとは。とはいえ、僕も大西さんもマイペースなところがあるから、それぞれのペースでご一緒してきましたよね。

大西:毎熊さんと一緒にいるのはとても楽です。変に緊張しないというか、気持ち的にすごく楽なんですよ。

毎熊:そうそう、どっちも脱力系っていう。目力があるので、はじめて会うまでは気の強い人なのかもしれないと思っていましたが、ぜんぜん違いましたね。「大西さんってどんな人?」と聞かれたとすると、答えるのが難しい。“優しい”とか“柔らかい”だとか、言葉にするとなんだか薄っぺらくなってしまう気がして。それでも言葉で表現するならば、人としての幹の部分が、栄養たっぷりな感じ。いろんなことに気を遣う人だけど、自分の世界を持っている。そんな印象です。

──ここからどういうお話が展開していくのか楽しみです。

毎熊:この連載に役者の方が登場してくださるのはこれがはじめてなので、普段はなかなか話さないような、演技の話をしてみたいです。大西さんは現場に立つ際、どんなことを考えているんですか?

大西:私、あんまり考えてないんです……。

毎熊:いや、「考えてない」って言いながら、めっちゃ考えてるタイプだと思う。

大西:どうなんだろう……。現場に立つ準備として、ひたすら情報を詰め込むことはしますね。演じる役とできるだけ近い人たちに焦点を当ててリサーチをしたりとか。『安楽死特区』は“安楽死”が題材ですから、いろんな資料に当たって、自分の知らないことをとにかく吸収していく。それが役を表現する際のヒントになります。でもやっぱり、私自身が特別に何か考えているわけではないと思います。

毎熊:2作品ご一緒させてもらった身からすると、何も考えてないだろうとは思わないですよ。たとえばですが、演じる役の感情って、役者がコントロールしなくちゃいけないものじゃないですか。でも役者自身が不調だったり、緊張していたりすることだってあるはず。現場での大西さんはあまり緊張しているようには見えなかったから、どういう状態でカメラの前に立っているのかが気になったんです。

大西:現場での私自身の状態は、監督や共演者の方々に左右されていると思います。対面する相手がどのような人なのかで、私の状態は変わってくる。だから私の芝居は相手の影響を強く受けるし、この影響を受けることでしか、芝居ができないともいえるかもしれません。自分のほうから持ち寄るものももちろんあるけど、他者からもらうもののほうが圧倒的に多いです。

──すごく柔軟なんですね。

大西:だから『初級演技レッスン』と『安楽死特区』の2作をとおして毎熊さんがそう感じてくださったなら、それは相手が毎熊さんだからですよ。毎熊さんは目の奥が優しい。相手のことを否定せず、全部を受け止めてくれる。それはお芝居に関してもそうだし、何気ない会話の中でも感じました。毎熊さんはどうですか?

毎熊:自分もけっこう似てるかも。相手のことを尊重して、自ら合わせていく。相手に合わせられてこそ、自分の表現も良くなる感覚があるというか。

大西:その感覚、すごく分かります。

毎熊:似た感覚を持つふたりだからこそ、うまくいったところがあるのかもしれませんね。そんなに言葉を交わさずとも、現場では同じ“何か”をキャッチできている気がしたんですよね。どちらかがゴリゴリに決め込んでから現場に入るタイプだったら、共演した2作はまったく違う感触の映画になっていただろうな。

大西:そう考えると映画って、すごいバランスで成り立っていますよね。しかも、もしどちらかが役の表現の細かいところまで決め込んできたとしても、それはそれで成立するのがお芝居の面白いところでもある。

──たしかに。作品や役の関係性の手触りは変わるけれども、成立はしますね。

大西:これはたとえ話なんですが、「この人の芝居はヘタだ!」という声があがるとします。

毎熊:SNSとかで見かけますね。

大西:お芝居に関するこうした誰かの反応が生まれることこそ、すごく面白いと私は思うんです。演技のいったいどの部分が、観客に「ヘタ」だと思わせたのか。シーンの流れの中で、的確なタイミングで適切に発されるセリフはたしかに美しいかもしれませんが、観ている人間の予想を裏切るような表現のほうが面白いと私は思います。

毎熊:それ、すごく分かります。しかもこの良し悪しって、映画やドラマのどのフォーマットなのかによって変わるし、作品のタイプにもよるんですよね。いくら同じ芝居でも、ある作品ではリアルに見えていたものが、別のある作品ではすごく大袈裟だと感じたり。改めて、芝居って奥が深い。

──大西さんは大学で演技について学んだんですよね?

大西:そうですね。演技だけでなく、映画史や映画づくりの機材についても学びました。友人たちが自主制作映画をたくさんつくっているので、それだけ私としてはカメラの前に立つ機会がありました。こうしていまも役者を続けているわけですが、あの頃の経験は大きいですね。正解を押しつけられない環境で、悩みながらも好きなだけ試行錯誤できましたから。演技のワークショップに参加するのもいいですが、いくら小さくてもちゃんとひとつの作品が生まれることで得られるものがありました。

毎熊:いまの大西さんの役者としての土台部分に影響している経験が何かあれば、ぜひ聞いてみたいな。撮影現場で受けた誰かの演出でもいいし、芝居の稽古場での誰かの一言でも。

大西:鈴木卓爾監督とご一緒させていただいた、『嵐電』(2019年)という映画の現場でのことですね。卓爾さんは、役者が演じるキャラクターの感情を決めつけない監督です。カメラを回す前、ふんわりと役について問いかけてくるのですが、そこで明確な答えを求めようとはしない。こちらに問いかけたまま、本番に入るんです。もし監督が演技の動線を決めてきたとしたら、「分かりました」と私は素直に応じるタイプです。でもこれだと、本番の演技は固くなってしまうかもしれない。答えを出そうとしないまま芝居をするのが、私としてはすごく心地良いんですよね。先ほどの演技の柔軟性のお話とも通じるもので、いまの私にとって重要な感覚です。

毎熊:これは実際に演技をしてみないと分からないことだと思うのですが、分からないまま、つまり答えを出さないままカメラの前に立つのって、すごく怖いことなんですよね。それを良しとしているのはすごい。

大西:毎熊さんは明確な答えが見えたうえでお芝居されていますか?

毎熊:撮影の前の日は、安心して眠りにつきたいですよね。でも答えが見えないまま朝を迎えてしまうことがある。見つからないものはしょうがないから現場に行くわけですが、監督やスタッフさん、共演者の方々と言葉を交わしていると、ふと、何かが見えたりする。ここで見えた何かをちょっとだけ掴んだ状態で、カメラの前に立つわけです。すると不安が杞憂に終わり、うまくいったりする。芝居とは自分ひとりで答えを出すものではないのだと痛感する瞬間です。自分の演じる役の根底の部分さえ掴めていればいいのかもしれない。不安は拭えませんが、最近はそんなことを思ったりしています。

大西:デスクがめちゃくちゃに散らかっている人のほうがクリエイティブ、みたいな話に近いのかもしれませんね。普通は結びつかないように思えるところを、ふとしたあるときに繋げてしまう。あの繋がる瞬間、演じる楽しさを感じますよね。

毎熊:一つひとつの形が違っていて無関係に思えるけれど、じつはある瞬間にカチッとハマることがある、みたいな。そういうこと、ありますよね。やっぱり大西さん、何も考えてなくないじゃないですか(笑)。じつはめっちゃ考えている人。

大西 礼芳
おおにし あやか|俳優
1990年6月29日生まれ、三重県出身。大学在学中に制作された『MADE IN JAPAN 〜こらッ!〜』(11/高橋伴明監督)でデビュー。主な映画出演作は『菊とギロチン』(18/瀬々敬久監督)、『嵐電』(19/鈴木卓爾監督)、『花と雨』(19/土屋貴史監督)、『夜明けまでバス停で』(22/高橋伴明監督)、「MIRRORLIAR FILMS Season4」『バイバイ』(22/ムロツヨシ監督)、『初級演技レッスン』(24/串田壮史監督)、『また逢いましょう』(25/西田宣善監督)など。

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。主な映画出演作に『サイレント・トーキョー』(20/波多野貴文監督)、『猫は逃げた』(21/今泉力哉監督)、『冬薔薇』(22/阪本順治監督)、『世界の終わりから』(23/紀里谷和明監督)、『初級演技レッスン』(24/串田壮史監督)、『悪い夏』(25/城定秀夫監督)、『「桐島です」』(25/高橋伴明監督)など。

安楽死特区
2026年1月23日(金)より新宿ピカデリー他にて公開中

毎熊克哉 大西礼芳
加藤雅也 筒井真理子 板谷由夏 下元史朗
鳥居功太郎 山﨑翠佳 海空 影山祐子 外波山文明 長尾和宏 くらんけ
友近 gb 田島令子 鈴木砂羽
平田満 余貴美子 奥田瑛二

監督:高橋伴明
原作:長尾和宏 小説「安楽死特区」ブックマン社刊 脚本:丸山昇一
配給:渋谷プロダクション
2025年/日本/カラー/シネマスコープ/5.1ch/日本語/129min
©「安楽死特区」製作委員会

ヘアメイク:【毎熊】小口あづさ(NANAN)、【大西】廣瀬瑠美
スタイリスト:【毎熊】カワサキ タカフミ、【大西】Lim Lean Lee

撮影:西村 満
取材・文:折田 侑駿

毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。以降、テレビ、映画、舞台と幅広く活躍。主な映画出演作に『孤狼の血 LEVEL2』『マイ・ダディ』(21)、『猫は逃げた』『冬薔薇』(22)、『世界の終わりから』(23)、『初級演技レッスン』『悪い夏』『「桐島です」』(25)等。公開待機作に『安楽死特区』『時には懺悔を』が控えている。

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