毎熊克哉さん×大西礼芳 対談後編 - 『安楽死特区』は僕らの代表作になる 2026.2.13
毎熊克哉による連載「毎熊克哉 映画と、出会い」は前回に引き続き、『安楽死特区』で2度目の共演となった大西礼芳が登場。本作は「安楽死法案」が可決された近未来の日本を舞台としたヒューマンドラマで、難病により余命宣告されたラッパー・酒匂章太郎と、そのパートナーでジャーナリストの藤岡歩の関係を中心に、"安楽死"をめぐる物語を描いていくもの。
この対談の「後編」では作品の話を掘り下げつつ、俳優としてのふたりの思考により迫っていく。そこで垣間見えてきたのは、思いのほか人間くさい一面だった──。
この現場はまったく隙がなかった。気を抜いたらすぐにバレるんだろうなっていう気がしていました。──毎熊克哉
監督が伴明さんだからですよね。伴明さんに声をかけられたら、誰もが前のめりで参加するんじゃないかな。──大西礼芳
──「前編」ではおふたりの俳優としてのスタンスに触れることができました。今回は『安楽死特区』のお話も深掘りできたら嬉しいです。
大西:この作品で毎熊さんが演じる章太郎は、難病を患って余命宣告をされ、日に日に弱っていく人物です。演じていて元気がなくなるとか、毎熊さんご自身にも何か影響はありましたか?
毎熊:松葉杖をつく役を演じたことはありますか?
大西:どうだろう......ないかもしれない。
毎熊:いくら演技だとはいえ、松葉杖をついていると、しだいに本当に足が悪くなってくるんですよ。撮影が終われば"松葉杖生活"から解放されるわけですが、バランスがおかしくなるのか、どうにもうまく日常生活に戻ることができない。やがては話せなくなるほど章太郎の呼吸は不安定なのですが、これをずっと演じていると、僕自身も声が出しづらくなってきました。
大西:最後のほうのシーンを撮影しているときなんて実際に咳き込んでいて、声もガラガラでしたよね。そばで見ていて、毎熊さん自身も弱っていくように感じていました。
毎熊:シーンがシーンでしたしね。僕はどの役に関しても、"役が抜けない"みたいなタイプではありません。家に帰ればお風呂に入るし、食事も当たり前にする。とはいうものの今回に関しては、自分の日常と完全に切り離して演じられる役ではなかった気がしています。僕自身がつねに章太郎のそばにいないと、演じることにもっと苦しさを感じていたかもしれません。
大西:演じる役ごとに適したアプローチがやっぱりありますよね。自分とは遠いところにいる役を演じるときはとくにそう。実際の私は気が弱いのに演じる役は気の強いキャラクターが多いのですが、それなりにギアを入れないと演じられません。
毎熊:それ、分かるな。自分もいまだに怖そうな人だと思われることが多いんですが、実際にはこんなにもマイペース。でもコワモテの役をいただいたら演じなきゃならないから、それこそギアを切り替えないと演じられないんですよね。
大西:「悪役を演じるのは楽しい」という話ってよく聞くものじゃないですか。楽しいですか?
毎熊:それに関しては、楽しいといえば楽しいかも。悪役よりも善人役のほうが演じるのは難しいと思っていますしね。悪役というのはキャラクター単体で見たら悪いやつなんだけど、俯瞰的に見てみると滑稽だったりするもの。これが人間の良い面も悪い面も垣間見えるような存在だと、ある意味においてはすごく人間くさい存在だと捉えられたりするんですよね。こういった場合は、演じていて楽しいし面白い。でも善人を演じるときには、そのキャラクターを人間くさい存在だと捉えるため、悪いところを探しちゃうんですよ。まあ、あくまでも演じる自分だけが大切にしているというものでしかないけど。
──大西さんはどうですか?
大西:悪役というか意地悪な役を演じることが多いのですが、楽しいと感じられない期間のほうが長かったですね。こういった役を演じるときって、相手を傷つけるようなことを言ったりするわけじゃないですか。演じるために私は、なぜそんなことを口にしてしまったのか、その理由を考えます。なぜ彼女はこんなにもひどいことを言えるのか。こんなことを口にする彼女は、いったい何を抱えているのか。こうして掘り下げていくと、キャラクターの持つ不器用さが見えてくる。意地悪な人って、それが自衛の手段だったりもしますよね。こんなことをぐるぐる考えていると、現場で心も身体もガチガチになって、すごく辛いと感じてしまう。そんな期間が長く続きました。
毎熊:最近は変わってきたんですか?
大西:もうちょっと引いた視点を持って臨まなければならないなって。自分の演じるキャラクターがその作品において、いったいどういう立ち位置にある存在なのか。これが重要ですよね。こうして捉え方を変えることで、少しずつ気持ちが変化しつつあります。
毎熊:『また逢いましょう』では明るくて優しい役を演じていましたよね。
大西:はい、珍しく......(笑)。
毎熊:さっきのコワモテの話もそうだけど、似た系統の役ばかり演じるのは、僕としてはマズいことだと思っています。これだと自分の思い描く俳優像から離れてしまう。でもそのいっぽうで、この目つきのワルさは変えられない自分の特徴でもあるから、時間をかけてもっとうまく扱っていけるようになれたらいいのかもしれない。最近はそんなことを思いはじめました。すでに話したように、"コワモテキャラ"は自分自身とは真逆なので、しんどい時期がありましたけどね。
──おふたりとも目力が強いので、それも関係しているのかもしれませんね。
毎熊:『初級演技レッスン』を観てくださった方の感想の中で、僕らの目力が強いから、スクリーンに映し出されたときに特別なエネルギーが生まれている、みたいなものがありました。
大西:『安楽死特区』の現場でも、カメラマンの林淳一郎さんに目力について言葉をいただきました。目力が強いのは特別な武器になるけど、ときには意識的に弱めることも大事だよって。
毎熊:林さんは細かいところまで演技を見ている方だよね。すごいな......。そういう意味でこの現場はまったく隙がなかった。気を抜いたらすぐにバレるんだろうなっていう気がしていました。みなさん本当に細かいところまで見てらっしゃるから。
大西:やっぱり監督が伴明さんだからですよね。伴明さんに声をかけられたら、誰もが前のめりで参加するんじゃないかな。伴明さんも役者に何かを強制する方ではないので、すごくやりやすかったです。
──2度目の共演作となった『安楽死特区』は、おふたりにとってどのような作品になりそうでしょうか?
大西:この映画の打ち上げのあと、別れ際に毎熊さんが「僕らの代表作になるね」って言ってくれたんです。
毎熊:たしかに言ったかも。「なったらいいね」って。
大西:ううん、毎熊さんは「なったらいいね」じゃなくて、「なるね」って言ったんです。そして私もそんな気がすると思った。それはいまも変わっていません。
毎熊:何をもってして代表作と呼ぶのか。それは映画がヒットするとか、役が人気になるとか、そういうことじゃない気がしています。伴明さんのもと、この特別な体験ができたのだから、これこそが代表作になるのではないのか。そんなことを思いますね。数値化できない価値が、この映画にはある。だからみなさんに届いてほしいです。
大西 礼芳
おおにし あやか|俳優
1990年6月29日生まれ、三重県出身。大学在学中に制作された『MADE IN JAPAN 〜こらッ!〜』(11/高橋伴明監督)でデビュー。主な映画出演作は『菊とギロチン』(18/瀬々敬久監督)、『嵐電』(19/鈴木卓爾監督)、『花と雨』(19/土屋貴史監督)、『夜明けまでバス停で』(22/高橋伴明監督)、「MIRRORLIAR FILMS Season4」『バイバイ』(22/ムロツヨシ監督)、『初級演技レッスン』(24/串田壮史監督)、『また逢いましょう』(25/西田宣善監督)など。
毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。主な映画出演作に『サイレント・トーキョー』(20/波多野貴文監督)、『猫は逃げた』(21/今泉力哉監督)、『冬薔薇』(22/阪本順治監督)、『世界の終わりから』(23/紀里谷和明監督)、『初級演技レッスン』(24/串田壮史監督)、『悪い夏』(25/城定秀夫監督)、『「桐島です」』(25/高橋伴明監督)など。
『安楽死特区』
2026年1月23日(金)より新宿ピカデリー他にて公開中
毎熊克哉 大西礼芳
加藤雅也 筒井真理子 板谷由夏 下元史朗
鳥居功太郎 山﨑翠佳 海空 影山祐子 外波山文明 長尾和宏 くらんけ
友近 gb 田島令子 鈴木砂羽
平田満 余貴美子 奥田瑛二
監督:高橋伴明
原作:長尾和宏 小説「安楽死特区」ブックマン社刊 脚本:丸山昇一
配給:渋谷プロダクション
2025年/日本/カラー/シネマスコープ/5.1ch/日本語/129min
©「安楽死特区」製作委員会
ヘアメイク:【毎熊】小口あづさ(NANAN)、【大西】廣瀬瑠美
スタイリスト:【毎熊】カワサキ タカフミ、【大西】Lim Lean Lee
撮影:西村 満
取材・文:折田 侑駿
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。以降、テレビ、映画、舞台と幅広く活躍。主な映画出演作に『孤狼の血 LEVEL2』『マイ・ダディ』(21)、『猫は逃げた』『冬薔薇』(22)、『世界の終わりから』(23)、『初級演技レッスン』『悪い夏』『「桐島です」』(25)等。公開待機作に『安楽死特区』『時には懺悔を』が控えている。