毎熊克哉×天野千尋監督 対談前編ーキャラクターに対する視点

毎熊克哉

絶妙なユーモアのセンスというか、人間というものに対して、天野さんならではの特別な視点がある気がしています。──毎熊克哉

これからは天野千尋だからこそ撮れるものを撮らなければならないなと。──天野千尋監督

毎熊「『ミセス・ノイズィ』(2020年)が大きな反響を呼び、新作の公開が待たれる天野千尋監督をゲストにお招きしています。天野さんの作品って、登場するキャラクターの独特な面白さがありますよね。どんなキャラクターにも、その人特有の面白さがある。絶妙なユーモアのセンスというか、人間というものに対して、天野さんならではの特別な視点がある気がしています。これは誤解を恐れずにいえば、ちょっと“意地悪な視点”だともいえる気がしていて。ひとつの物語を成立させるために、人間のどの部分にどれくらいフォーカスするのがベストなのか。どのキャラクターもある種の深みのようなものがあって魅力的なんですよね。これは天野さんの作品の特徴のひとつかなと」

天野「これまでの連載に登場した方々の発言と被ってしまいますが、私もみなさんと同じく、毎熊さんって怖い人なのかと思っていたんですよね。でも、あるときにはじめてお見かけして、イメージとまったく違うことに驚きました。こうして対面してみるとなおさらです。毎熊さんのご指摘どおり、それぞれのキャラクターが持つ“その人らしさ”を大切にしていますね。声色や一挙一動などから、その人のバックグラウンドが見えてきたりするものじゃないですか。その人があまり他人に見せたくない瞬間を捉えていたりすると、“意地悪な視点”に映るんだと思います」

毎熊「作品を拝見して抱いた印象の答え合わせをしている気分です。今回の対談ですごくお聞きしたかったのが、天野さんはお子さんがいるということで、親になったことによってクリエイターとして変わったことがあるのかということです。僕はまだ親になった経験がありませんが、けっこう言われるんですよ。“親になったら変わるぞ”って。これを機に天野さんにお聞きしてみたいなと思ったんです」

天野「子どもを産むと価値観が変わると、出産前の私も思っていました。むしろその変化に期待をしていたくらいです。別次元の自分になれるんじゃないかって。でも、何も変わらないんですよね……。もちろん、赤ちゃんは可愛いし、この子を大切にしたいと心から思いました。ですが、それで価値観が変わったわけではないんです。ただ、もっと物理的に、時間の使い方は明確に変わりました。あと仕事関係者からの見られ方も。強い意志を持って本当に作るべきものを作らないと、時間もチャンスも無くなってしまう。それまでは若手だから貰えたチャンスもありましたが、これからは天野千尋だからこそ撮れるものを撮らなければならないなと。そんな意識が強くなりましたね」

毎熊「とても興味深い、天野さんならではの視点だと思います。子どもって、見ていて面白いですよね。あの子たちの自意識みたいなものって、どのタイミングで芽生えてくるんですかね。僕が気になっているのは、いつ頃から自分のキャラクターのようなものを演じはじめるのか、ということです。僕だけではなく、この社会で生きるほとんどの人が、どこかで演じることをはじめるわけじゃないですか。社会における自分のキャラクターを。その境目を少しでも理解できたら、役者として面白いだろうなと思うんですよ。撮影現場で“演じていない瞬間”を生み出せるかもしれませんから」

天野「役を演じているときの毎熊さんと、演じていないときの毎熊さんの差を、現場においてならしていきたいということでしょうか。私はひとりの人間が他者を前にして、演じていない瞬間はあまりないと思っています。なぜなら人間って、対面する相手によって変わるものだから。ただ、そんな中で一瞬だけでも、まるで演じていないような瞬間を生み出すことができたら。それは面白いことになりそうですね」

※後編はweb限定

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第31回高崎映画祭最優秀 新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『そして僕は途方に暮れる』、『世界の終わりから』。主演映画『桐島です』が2025年公開予定。

天野千尋
あまのちひろ|映画監督
1982年7月30日生まれ、愛知県出身。2009年に映画制作を開始、ぴあフィルムフェスティバルを始め、多数の映画祭に入選・入賞。主な監督作品に、WOWOWドラマ『神木隆之介の撮休』監督、土ドラ『僕の大好きな妻!』(東海テレビ・フジテレビジョン系)のほかアニメ『紙兎ロペ』などの脚本を手がける。長編映画『ミセス・ノイズィ』がニューヨーク・ジャパンカッツ観客賞、日本映画批評家大賞脚本賞を受賞。脚本を担当したドラマ『ヒヤマケンタロウの妊娠』がNetflixで配信中。

毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。

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