毎熊克哉×古川豪監督 対談後編 -『金子差入店』に繋がれていく想い

毎熊克哉

前編はこちらから

「毎熊克哉 映画と、出会い」では前回に引き続き、『金子差入店』の古川豪監督をゲストとしてお招き。この「後編」では、刑務所などに収容された人々への"差し入れ"を代行する「差入屋」を描いた本作について、それぞれの立場や視点から語っていく。

 俳優・毎熊克哉は本作に何を感じ、何を思ったのだろうか──。

『金子差入店』はいま公開されるべき作品

──毎熊さんは『金子差入店』を観て、どのような印象を抱きましたか?

毎熊:これは刑務所などに収容された人たちへに"差し入れ"を代行する「差入屋」の日々を描いたものですが、普通に生活をしていると、なかなか縁の無い世界ですよね。とくに僕にとってはそうです。

©2025映画「金子差入店」製作委員会

古川:そうですよね。自分もたまたま出会うまで、まったく知らなかったので。

毎熊:知らない存在なので、ここに描かれていることは遠いといえば遠いものです。でも、なんて言ったらいいんだろう......。思い切って言うと、いまのこの日常を生きていて、「日本、大丈夫か?」って感じる瞬間がすごく多いんですよ。

──というと?

毎熊:誰かの何かひとつの言動によって、顔も見えない誰かが苦しみ、ときには命を落としてしまう。そんなことが日常的に起こっているのを実感しています。そしてこの恐ろしい感覚は、年々、強くなってきている。罪を犯した人間のすべてを許すことは難しいかもしれません。でも、受け容れようとする心の器を持っていたいと、僕は思います。この作品ではいくつかの"罪"を扱っていますが、僕らの誰もが罪とは無縁ではないと考えていますから。

古川:過去に殺人を犯した人間が隣にいたとしたら、僕だって恐いです。自分の身に危険が及ぶかもしれない。当然の感覚だと思います。本作をとおして、罪を犯した者たちに手を差し伸べるべきだと訴えたいわけではありません。ただこの映画を観た方々には、自分の中で考える時間を持っていただけたら嬉しいです。そしてその感覚が次の世代、さらに次の世代へと受け継がれていって、少しでも優しい時間が増えたらいいなって。それだけです。悲観的になることは、僕にとって寂しいことなので。

毎熊:そうですよね。時代が変わっていく中で、子供たちには優しい人間に育っていってほしいと純粋に思っています。生きていくためには、ときには物事の白黒や善悪をハッキリさせることも重要かもしれません。でも、この白と黒の間にはグラデーションがあったりするじゃないですか。そんなことに気づいてほしいと思いますね。

©2025映画「金子差入店」製作委員会

──そういう力を持った作品だと思います。

古川:ありがとうございます。自分に子供ができたとき、「この子の世代のために映画をつくればいいんだ」と気がついたんですよ。映画だったら"想い"は残り続けるはずですから、僕としてもそう願っています。ところで毎熊さんは、ある作品の現場が終わってから次の作品の現場に入る際、うまく切り替えられるほうですか?

毎熊:現場での経験は、やっぱり蓄積され続けていきますね。ただ、関わった作品や演じた役のすべてをつねに持っている実感はなくて。どちらかといえば、特定のシーンに臨んでいたときの自分自身の心情ですかね。それが僕の場合、思いがけない瞬間に表れたりします。過去に参加した作品で、自分の演じる役を少しでも深く理解するためにお会いした方が、ご自身の辛い記憶を語ってくださっているときの表情や目をふと思い出したり。撮影が終わり、作品が完成したからといって、そこで切り離すことはできませんね。

古川:なぜこの質問をしたかというと、僕自身、ずっと引きずっているからなんです。監督作である『金子差入店』だけでなく、これまで関わった全作品です。どれだけ自分が現場のみんなの要望に応えられたのか。自分の判断は間違っていなかったか。普段は言葉にしないだけで、ずっとくよくよ考えているんです。過去との折り合いをつけるのって、難しいですよね。

©2025映画「金子差入店」製作委員会

毎熊:この対談の「前編」では古川さんのこれまでの"歩み"についてお聞きしましたが、いろんなことが分かった気がします。というのも、通常は映画をつくるに至った動機などについて質問したりするのですが、『金子差入店』の場合は古川さんのお話の中から誕生の理由を見つけられた気がするんです。この映画はいま公開されるべき作品なんだと僕は思います。

古川豪
ふるかわごう|監督
1976年生まれ、京都府出身。松竹シナリオ研究所卒業。2003年、名取裕子主演の「早乙女千春の添乗報告書 14 奥飛騨・下呂湯けむりツアー殺人事件」に制作進行見習いとして参加。翌年、『釣りバカ日誌15 ハマちゃんに明日はない!?』(04)でフリー助監督に転身、『ゼブラーマン』シリーズ(03・10)、『おくりびと』(08)、『東京リベンジャーズ』シリーズ(21・23)など数々の作品に帯同する。2010年、オムニバスショートフィルム『dance?』で監督デビュー。TVドラマやショートフィルム、SUPER BEAVERのMVなどの演出・脚本・監督を経て、本作が劇場用長編映画の監督第1作となる

毎熊克哉
まいぐまかつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、第31回高崎映画祭新人賞を受賞。公開待機作に『無名の人生』、『時には懺悔を』、『桐島です』が控えている。

金子差入店
5月16日(金) TOHOシネマズ 日比谷他全国ロードショー

丸山隆平
真木よう子/三浦綺羅 川口真奈
北村匠海 村川絵梨 甲本雅裕 根岸季衣
岸谷五朗 名取裕子
寺尾聰
監督・脚本:古川豪
主題歌:SUPER BEAVER「まなざし」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
製作:「金子差入店」製作委員会 
製作幹事:REMOW 製作プロダクション:KADOKAWA
配給:ショウゲート
©2025映画「金子差入店」製作委員会

撮影:西村満 取材・文:折田侑駿

毎熊克哉 俳優

1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の初主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクールスポニチグランプリ新人賞、おおさかシネマフェスティバル2017新人男優賞、第31回高崎映画祭最優秀新進男優賞を受賞。近年の主な映画出演作は『生きちゃった』、『マイ・ダディ』、『猫は逃げた』、『妖怪シェアハウス 白馬の王子様じゃないん怪』、『ビリーバーズ』。三浦大輔監督の『そして僕は途方に暮れる』が公開中。

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