阪本武仁監督「参加してくださる俳優の方々の熱意がこの作品には必要だった」 『結婚の報告』インタビュー

テラスマガジン編集部

 2025年5月31日にインディーズ映画の聖地である池袋のシネマ・ロサにて封切られた『結婚の報告』。当初は2週間の限定公開を予定していたものの、口コミによってファン層を拡大し、5週間のロングラン上映で延べ2000人以上もの観客の動員を達成した。ここから全国展開を実現させるべく、現在はクラウドファンディング・プラットフォームのシネファで支援者を募っているところだ。

シネファでクラウドファンディング実施中!(2025/9/30まで)

 このプロジェクトならびに『結婚の報告』をより広く知ってもらうため、阪本武仁監督へのインタビューを実施。原作である同名舞台作品を、どのようにして映画化させたのか。シチュエーション・コメディの魅力とは何なのか。監督が語る──。

まは純粋に観客のみなさんに「楽しんでほしい」と思っています

──シネマ・ロサでの限定上映を経て、全国展開に向けて動いているところですね。ロサでの上映はいかがでしたか?

2週間限定のレイトショー上映だったので、チラシ配りなどをみんなで行いました。最初のうちは観客の大半が知人や友人たちでしたが、日に日にお客さんが増え、最終的には5週間も上映していただきました。口コミによって『結婚の報告』が広がっていくのを肌で感じることができましたね。

──インディペンデント作品ならではの楽しみ方ですね。これは中野守さんによる同名戯曲の映画化ですが、どのような経緯で企画がスタートしたのでしょうか?

僕はもともと中野劇団のファンなんです。関西を拠点にして主にコメディ作品を上演している劇団の中では、僕にとってヨーロッパ企画と双璧をなす存在です。とくに中野さんの描く作品の肌触りが僕にはすごく合っていて、いつかご一緒したいとお伝えしていました。そうして実現したのがこの企画です。中野劇団はいろんなタイプの笑える作品を上演していますが、基本的にはシチュエーション・コメディ。すごく個性的なキャラクターやギャグが飛び出すわけではなくて、シチュエーション(=状況)がつくり出す面白さによって笑いが生まれるのが特徴です。中でも僕の大好きな『結婚の報告』を「“短編映画”にしよう」ということで企画がスタートしました。

──もとは短編の企画だったと。

そうなんです。原作の舞台が30分なので、映画も30分くらいのものを想定していました。でも脚本執筆に取り組んでいるうちに、僕も中野さんもどんどん欲が出てきて。長編の尺になれば、劇場公開の可能性も生まれる。そうして結果的に68分になりました。とはいえ、強引に伸ばしていったわけではありません。原作の持つ面白さを損なわないよう、登場人物たちの関係性や劇中のやり取りを無理なく膨らませていった結果、現在のかたちになっていったんです。ふたりでディスカッションを繰り返しながら、中野さんが映画のシナリオとしてまとめてくださいました。

──阪本監督は映像をつくる方ですが、中野さんは劇作家として演劇をつくる方ですよね。それぞれに異なる視点を持っているのではないかと思うのですが、そのあたりはいかがでしたか?

そうですね。僕としては映画にする以上、やはり映画ならではのアプローチを取り入れていきたいと思っていました。たとえば、映画ではクローズアップによって、人物の表情に肉薄することができる。登場人物のリアクションを丁寧に捉え、その積み重ねを観客のみなさんに提示していきたいなと。脚本は原作の戯曲にかなり近いものなのですが、そのあたりのことを執筆段階から想定していました。

──セリフに関してはいかがでしょう。観客にどのように届けるか、演劇と映画だと志向するニュアンスが変わってきませんか?

それは俳優のみなさんとつくっていきました。基本的にはシナリオどおりにやっていただいているのですが、読み合わせをしてみて違和感があったら修正をしたり。それぞれの役が口にする言葉として合っていれば、自由に変えてもらってもかまわないとお伝えしていました。みなさんのお芝居を撮るというよりも、その場にいる人々のやり取りを切り取っていきたい思いがあったんです。ただ、この作品に必要な芝居のトーンやテイストは僕の中に明確にあったので、それを事前に共有したうえで撮影に臨みました。

──俳優のみなさんは応募者数1000名を超えるオーディションを経て出演が決まったそうですね。

まず書類選考を行ったのですが、そこで動画審査を実施しました。課題のシナリオをお送りし、それを演じる姿を動画に収めていただくと。なので2次選考はかなり絞った状態で行ったんです。

──明確な審査基準などはあったのでしょうか?

これはもう完全に、合うか合わないかの話だと思います。僕としては、素晴らしい俳優の方々がこんなにもたくさんいることを改めて知る機会になりました。『結婚の報告』という作品を制作するうえで求めているカラーがあったので、今回ご縁のなかった方は、たまたまこのカラーが合わなかっただけなんです。2次選考では面白い芝居が生まれそうな組み合わせをつくり、実際に目の前で演じていただきました。

──そうして座組ができあがっていったと。

オーディションを実施せずに、オファーによってキャスティングをすることも可能でした。実際、そのあたりについても中野さんとは話し合いました。でもやはりオーディションを実施して正解でしたね。結果としてベストなキャスティングになったこともそうですが、参加してくださる俳優の方々の熱意がこの作品には必要だったんです。主演の高橋里央さんをはじめとし、とにかく面白い方と出会うことができました。

──やがてクリエイションに入っていくわけですが、クランクインまでどのように進めていったのでしょうか?

稽古場を借りて、本番さながらのリハーサルを重ねました。演劇をつくる過程に近いものだったと思います。ただ、お芝居の質に関しては映像的なものを望んでいたので、そのあたりはつねにみなさんと確認し合いながら。いっぽう、物語は特殊なシチュエーションで進行していくものでもあるので、ときに大きな演技を求めることもありましたね。

──阪本監督が目指す作品の空気感など、すんなりと共有できましたか?

僕はあまり言葉で説明するのが得意ではないので、紙に書いてまとめてお伝えするところからスタートしていきました。この喜劇を撮るうえで、僕がこれまでに影響を受けてきた日本映画を観ていただいたりもしましたね。『釣りバカ日誌』や『男はつらいよ』、それからとくに三谷幸喜さんの作品など。俳優のみなさんそれぞれに好みのお芝居の質というものがあるでしょうし、これはどこで演技を学んできたのかによっても変わってきますよね。なので僕の好きなものや『結婚の報告』に必要なものをご提示したほうが分かりやすいだろうなと思ったんです。とはいえ、出演をお願いしている時点で目指すゴールがどこにあるのかは共有できているので、あとは微調整していただくだけでした。本当に経験豊富な方々に集まっていただきましたから。

──演出する際、とくに意識していたことは何でしょうか?

間とテンポです。これに尽きますね。ほんのちょっとの違いで、同じシーンでもまったく笑えなくなったりするんです。声のボリュームもそうですね。現場ではかなり意識していました。そして現場で修正するのが難しかったところは、編集によってセリフの間を詰めています。みなさんとはそれなりに稽古を重ねましたし、自主練もやっていただきました。でも一連をとおしてお芝居をやっていただくと、ちょっとした間のズレはどうしても生まれてしまうもの。そこは編集の力ですね。

──いくつものカットの積み重ねによって成立している映画ですが、撮影スタイルはどのようなものだったのでしょうか?

10分の長回しを、それぞれ7回くらいやっています。僕は助監督出身なのですが、10分ってとても長いんですよね。カメラを回すたび、強い緊張感を味わいました。不確定要素がたくさん出てきますし、不意にアクシデントが起きたりもする。そういったものを俳優のみなさんはうまくシーンに取り入れてくださいました。

──まさに、カメラの前で役を生きていたと。

そうです。何かやってやろうとするのではなく、役を演じていく中で自然と生まれるものがたくさんありました。俳優部の凄みを実感した撮影でした。

──こうしてお話を聞いていると、本作の現場がいかに有意義なものであったのかや、阪本監督がどれだけシチュエーション・コメディを愛しているのかが伝わってきます。『結婚の報告』を撮ってみて、改めて思うシチュエーション・コメディの魅力について聞かせていただけますか?

シチュエーションが限定されるぶん、登場人物たちのやり取りから生まれる面白さが凝縮されます。僕はその空間を演出することに面白みを感じています。とくに影響を受けているものだと、三谷幸喜さんの作品がやっぱり大好きで、とりわけ同名舞台を映画化した『ラジオの時間』(1997年)は傑作ですね。それから、『結婚の報告』はロマン・ポランスキー監督の『おとなのけんか』(2011年)を参考にしていたりします。次回作は吉本新喜劇のあの面白さと、シチュエーション・コメディの持つ面白さを映画で融合させようと考えています。

──『結婚の報告』の制作を経て、阪本監督ご自身に何か変化があったりしますか?

『エターナル・マリア』(2015年)と『レンタル×ファミリー』(2023年)に続いてこれが3作目なのですが、少しずつ変わってきていますね。最初の頃は「伝えなきゃ」という思いが強かったのですが、いまは純粋に観客のみなさんに「楽しんでほしい」と思っています。つまり、映画づくりをするうえで重きを置くポイントが僕個人から観客のみなさんへと移っていったんです。これはもしかすると、1作目と2作目で僕自身の言いたいことを吐き出し切ったからなのかもしれません。『結婚の報告』を全国展開させていくため、クラウドファンディングを実施中です。「関係者とロケ地で打ち上げ」などのユニークなプランもありますので、ぜひ応援していただけますと嬉しいです。

阪本 武仁
さかもと たけひと|監督
学生時代、『パッチギ』(2003/井筒和幸監督)に演出部ボランティアスタッフとして参加。卒業後上京し『大帝の剣』(2006/堤幸彦監督)、『手紙』(2007/ 生野慈朗監督)、『キトキト!』(2007/吉田康弘監督)、『20世紀少年~もう1つの第二章~』(2008/ 堤幸彦監督・木村ひさし監督 )、『告白』(2009/中島哲也監督)などの作品に助監督として参加。映画『エターナル・マリア』(2016)で長編映画の初監督を努める。2作目『レンタル×ファミリー』(2023)が国内・フィンランドでロングランヒットを記録。

結婚の報告
シネファでクラウドファンディング実施中!(2025/9/30まで)

親友・田村の母親と結婚を決めた敦也は、その報告をするため田村をバーに呼び出す。お調子者の田村は「相手が誰か当てるから言うな」と、報告しようとする敦也の言葉をさえぎり続け、敦也はなかなか言い出せない。結婚相手がまさか自分の母とは思わない田村は、ゲスな質問を繰り返す。そんな様子をニヤニヤと見ているバーの常連客・槇島もこれから同じく結婚の報告をするという。待ち合わせの相手、尚実が現れ、槇島は披露宴のスピーチをしてほしいと頼むが・・・

高橋里央 岡本智礼 市原朋彦 今村美乃
山田かな 古賀勇希
石井健太郎 神吉春果 井星 景
たけいまい 七海遼平 久保健太

監督:阪本武仁
原作・脚本:中野守 プロデューサー:土屋和彦
撮影:飯田佳之 照明:田中みつる 録音:古茂田耕吉
製作:映画「結婚の報告」製作委員会

撮影:西洋亮
取材・文:折田侑駿

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