森山みつき「私は『アンラッキーがデフォルト』」──芯を持たない“玉ねぎ”と、ミニシアターで見つけた「寄り添う」ということ 2026.7.13
Creator Scratch Radio vol.1 / シネファ presents
インディペンデント映画界で唯一無二の輝きを放ち、国内外の映画祭での最優秀女優賞受賞を契機に、メジャー作品やテレビドラマ、大手CMへと急成長を遂げている女優・森山みつき(もりやま・みつき)。彼女のキャリアを紐解くと、かつて大学の演劇サークルでの活動から始まり、芸名「満月伶」としてのCM出演、そして「自己肯定感皆無」だった日々など、決して平坦ではない軌跡が浮かび上がる。
なぜ彼女はスクリーンの中で、あれほどまでに観客を惹きつけるのか。本稿では、彼女のこれまでの歩みと独自の俳優観に迫る特別トークイベントの模様をレポート。聞き手には、かつて彼女と共演経験のある俳優の田村魁成を迎え、作品への純粋な恩返しや、過去の経歴についても深く掘り下げる。
居場所を探し続けた一人の女優が、観客や子どもたち、そして「映画」そのものに静かに寄り添おうとする温かい眼差しに迫る──。
「私は『アンラッキーがデフォルト』なんだと思うようになってから、生きるのがすごく楽になりました」
「映画の中の登場人物が苦しみもがいていたら、現実の苦しさを戦う観客の『仲間』になれるんじゃないかと思うんです」
森山みつき
居場所を求め続けた過去、そして「玉ねぎ」と呼ばれた私
── 10年前の舞台でアクションの基礎を学ばれていた頃から、本名での活動、そして芸名「満月伶」としての活動など、いくつかの転機がありましたね。大学生の頃にミニシアター(シアターセブンなど)に通い始め、やはり映画がやりたいと強く思って東京へ行かれたそうですが、当時は常に葛藤があったとお聞きしました。
森山:そうですね。埼玉で育ったのに大阪の大学へ行ったり、舞台をやっているのに「舞台はやりたくない」と言い続けていたり……。どこへ行っても、「ここが私の居場所だ」と思えなかったんです。映画に出始められた頃も、もっと先がある、まだまだ、という焦りのような気持ちがずっとありました。
── 上京して最初の事務所に入られた際、師匠であるボブ鈴木さんから言われた言葉がご自身の悩みと繋がっていたとか。
森山:はい。ボブさんはその人の「芯」に触れて、魅力を引き出すレッスンをされる方なんですけど、私の場合2年かけて探した結果言われたのは「みつきは玉ねぎだ」。剥いても剥いても、違う皮が出てくるだけで、芯が存在しないと。「じゃあ私は何なんだろう」って、ずっと思っていましたね。でも、主演作などで全国を回って、映画館に来てくださる観客の皆さんに出会えたおかげで、初めて自分のやったことが誰かに繋がっていく感覚がして。ようやく「人間にちょっと近づけたかな」と思えるようになったんです。
Creator Scratch Radio vol.1
「コップ」としての自分と、そこに注がれる「お酒」としての役
── 森山さんのお芝居を見ていると、作品ごとに全く異なる表情を見せることに驚かされます。ご自身の役作りは、非常に独特な表現をされていますね。
森山:私にとって、自分自身はコップみたいなものなんです。そこに注がれるお酒が「役」。私の身体や声、これまで生きてきた人生も含めて、「好きなように使ってください」という感覚なんです。同じコップでも、注がれるものが違えば全然違う味になる。だから私は、なるべく自分を固定しないでいたいんです。
── 役という存在を「他人」として突き放すのではなく、自分という器をそのまま差し出すような感覚でしょうか。
森山:そうですね。不思議なんですけど、それを何年も繰り返してきたら、少しずつ自分自身のことも分かるようになってきました。昔は、役に与えられた言葉を借りないと、人とまともに話すことすらできなかった。でも今は、自分が何を思っているのかにも気付けるようになってきて、それを相手に伝えることも、前ほど怖くなくなってきた気がします。だから私にとってお芝居は、自分を表現するためのものというより、役をちゃんと生きようとし続けた先で、人間というものを教えてもらう時間なのかもしれません。
「アンラッキーがデフォルト」──自己肯定感皆無から辿り着いた、生きるための処世術
── 活躍を広げられているかと思いますが、ご自身の心の置き方として意識していることはありますか?
森山:世の中ではよく「自信を持つために、自分はラッキーな人間だと思おう」と言われたりしますよね。私も昔、お芝居の授業でそう言われたことがあって、頑張ってそう思い込もうとした時期がありました。でも、現実は明らかにラッキーだとは思えない不遇な出来事があまりにも多くて(苦笑)。
── そこで、考え方を変えたのですね。
森山:はい。逆に「私はアンラッキーなのがデフォルトなんだ」と思うようにしてから、すごく気持ちが楽になったんです。何か不遇なことが起きても、「まあ私、デフォルトでアンラッキーだから」と受け流せる。逆に、何か良いことが起こったり夢が叶ったりしたときは、「こんなにアンラッキーな人間なのに、ここまで来られたんだ。ちゃんと頑張ってきたんだ」と思えるようになりました。ベースが自己肯定感の薄い人間だからこそ、この考え方には何度も助けられました。
Creator Scratch Radio vol.1
子どもたちとの触れ合いで──ただ静かに「横にいる」ということ
── 現在は週に1、2回、子どもと携わる仕事をされているそうですね。その時間もご自身にとって大切な軌道修正の場になっているとか。
森山:気分の波があって落ち込んでいるときでも、子どもたちと接していると、自分のことを考えている場合じゃなくなるんです。目の前の子が今どんな気持ちなんだろうとか、何を必要としているんだろうって考えていると、メソメソしてる暇がなくなって、自然と気持ちもリセットされるんですよね。
── 教室の中では、子どもたちにどのように接しているのですか。
森山:私自身、子どもの頃はいわゆる「陰キャ」で、自分から先生のところへ行ける子ではありませんでした。だから私は、何かを教えたり導いたりするよりも、「大丈夫だよ」と思いながら、ただ横にいる人でいたいんです。話したくなったら話せばいいし、話せない日があってもいい。ただ、いつでも受け止められるように、そこにいたい。「あの頃、こういう大人がいてくれたら嬉しかったな」と思える存在に、自分がなれたらいいなと思っています。
映画の中の登場人物が、観客の「仲間」になる。ミニシアターという居場所を守るために
── ご自身のその「寄り添う」姿勢は、映画や役者というお仕事にもそのまま通じているように感じます。映画が現実を生きる誰かを元気づけることについて、森山さんはどう考えていますか。
森山:誰かを「救おう」とするのは、少しおこがましいなと思ってしまうんです。ただ、私自身、劇場で『彼女がその名を知らない鳥たち』を観たとき、登場人物に自分を重ねて、涙が止まらなくなったことがあって。その映画体験が、今でも私の原点なんです。
── ハッピーエンドで美しく救われる映画だけが、人を救うわけではないと。
森山:そうですね。例えば苦しい状況にある人が映画を観て、その場では救われても、現実に戻ればやはり苦しさは続いている。だとしたら、映画の中の登場人物もハッピーエンドを迎えられずに、そのまま苦しみもがいて終わったら、「この人も現実と同じように苦しんでいる。一人じゃないんだ」という、ある種の『仲間意識』を感じられるんじゃないかと思うんです。それこそが救いになり、現実を戦うエネルギーになることもある。だから、ハッピーエンドではない、どこか後味の悪いような映画の中にも、大切な寄り添いがあると思っています。
── そうした個性的で多様な映画を上映し、観客と作り手を繋ぐのが、全国の「ミニシアター」という場所ですね。
森山:はい。『野球どアホウ未亡人』で全国を回ったときに強く感じたんですが、我々作り手にとって、ミニシアターが大切な居場所であるように、観客の皆さんにとっても、あそこはかけがえのない居場所なんです。だから、その場所がいつまでも続いていってほしいですし、私自身もメジャーとインディーの架け橋になって、恩返しをしていきたい。映画館という場所が、これからも誰かにとっての居場所であり続けられるように、自分にできることを続けていきたいと思っています。
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プロフィール
森山みつき(もりやま・みつき)/ 俳優
1996年11月3日生まれ、大阪府出身。アパッチ所属。2021年、樋口慧一監督の映画『共振』で本格的に映画デビュー。以降、2023年、主演映画『死後写真』でイタリアのSipontum Arthouse International Film Festival 最優秀女優賞(Best Actress)を受賞。同年、主演を務めたインディペンデント映画『野球どアホウ未亡人』の水原夏子役が大きな話題を呼び、全国拡大公開を果たす大ヒットを記録。以降、映画『ゴリラホール』、ドラマ『ラムネモンキー』など多くの作品に出演。8月8日より短編映画『ままならぬままごと』が公開予定。
左:田村魁成 右:森山みつき
イベント情報
シネファ presents『Creator Scratch Radio』
ゼロから何かをつくる人の“はじまり”や“想い”を聞いていくラジオ。映画を中心に、音楽やアートなどジャンル問わず、クリエイターの方をゲストにお迎えして、企画のスタートから作品に込めた想いまで、楽しく掘り下げていきます。今後も多彩なゲストをお呼びして、不定期開催予定。
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