『見えない娘 THE INVISIBLES』毎熊克哉×竹林亮監督×夏生さえり鼎談 第1弾前編 2026.8.27
俳優・毎熊克哉による連載「毎熊克哉 映画と、出会い」の最新回は、彼の新たな主演作である『見えない娘 THE INVISIBLES』のスペシャルな鼎談と座談会を実施。第1弾では、竹林亮監督と脚本家の夏生さえりを迎えての鼎談を前後編に分けてお届け。続く第2弾では、3名のプロデューサー陣との座談会をお届けする。
この『見えない娘 THE INVISIBLES』とは、透明人間である三女と一緒に、東京へと旅に出る家族の奮闘劇を描くSFドラマ。毎熊はこの一家の父・星野学を演じ、演技者として新たな一面を垣間見せている。
本連載に竹林監督が登場するのは、これが2度目だ。3年前の“出会い”が、本作へとつながった。時間をかけ、密なコミュニケーションを重ねての映画づくりを実現させた3人の間で、いまどんな言葉が交わされるのか──。
さえりさんと竹林さんが一番闘ったところはどこなのか、かなり気になります──毎熊克哉
物語を、映画を、どう着地させるのか──竹林亮監督
目指すべきゴールは同じものが見えてるから、そこに向かって議論を重ねる流れでした──夏生さえり
──この連載でついに、初の“再会”が実現しましたね。
毎熊:3年前に竹林さんと出会って、それから一緒に映画をつくり、こうしてこの場でも再会できました。いやあ、本当に嬉しいことだし、ありがとうございます。僕がホストというか、インタビュアー的な役回りで誰かに話を聞くのはあれがはじめてで。初対面の竹林さんに対して、根掘り葉掘りお聞きしましたよね。
竹林:そうでしたね。
毎熊:あのときは質問内容をガチガチに固めて臨んでいたんですけど、あのやり方、いまはもう完全にやめました。何を話すかを事前に決め込まず、初対面の相手との対話が自由に転がっていくのを楽しんでいるんです。竹林さんとさえりさんとは一緒に映画づくりをした仲なので、現場でいろんな言葉を交わしましたし、しこたま飲みながら語り合ったりもしましたよね(笑)。そんな時間を重ねてもまだ僕が知らなくて、いまも気になっているのが、さえりさんが表現の世界に入ってきたきっかけです。
夏生:どうしよう、いきなり思ってもみなかった話題だ(苦笑)。そうですね……ずっと、文章を書く仕事への憧れはありました。小さい頃から言葉を綴るのが好きで、中学時代にはポエムを書いたりしていたくらいなんです。でも、特別才能があったわけでもないし、読書家でもなかったので、本当にただの憧れでしたね。まず、身近なところにいなかったし。
毎熊:でも、こうしてたどり着いた。
夏生:巡り巡って、ですね。キャリアのスタートは出版社勤めの編集者で、いつからか自分でも書くようになり、ライターとしての活動に軸足を移していきました。でもそこで書いていたのは、自己表現的なものというよりも、文章にすることで何かを伝えるのが主だったんです。
毎熊:この連載の執筆を担当している折田さんのような。
夏生:そうですね。そうしてライター仕事をする中で、短い物語について書いてほしいという依頼もいただくようになって。もともと恋愛系の記事をたくさん書いていたこともあって、短い恋愛のお話を書くようになっていきました。そしてしだいに、恋愛以外の物語を紡いでいきたいと考えるようになり、CHOCOLATE Inc.(以下、チョコレイト)に入って、竹林さんと出会ったんです。
竹林:たまたま同じ時期なんですよね。チョコレイトに入ったの。
夏生:それぞれ別のルートですが、同じ時期でしたね。私は恋愛以外の物語が書きたくて、竹林さんは映画を撮ろうとしていました。その頃、CCOの栗林さんが企画した新しい形の企画で、YouTube上で短編作品を作ることになったんです。それが、あさぎーにょさん主演の『もう限界。無理。逃げ出したい』でした。YouTube上で発表したのが2019年の末のこと。脚本を書いてみたい私と、映画を撮りたい竹林さんを、栗林さんがチームとして編成してくださって、一緒に作った最初の作品になりました。
──もともと短いお話を書いていたとのことですが、『もう限界。無理。逃げ出したい』は尺にして20分弱もある作品ですよね。いきなり書けるものなのでしょうか?
夏生:勉強が必要でした。映像にして3分くらいのものだったら、勢いで書けちゃうんです。でも20分とかになると、最後までどう書き切ったらいいのかわからない。そもそも映画文化との接点もあまりなかったので、竹林さんが「この本を、教科書のようにしよう」と言った本を片手に、一緒に作り上げて行きました。そこから、ずっと一緒に勉強をし続けています。
毎熊:そのことを踏まえると、『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』も『見えない娘 THE INVISIBLES』も長編だから、すごいところまで来ちゃいましたね。今作に関していうと、竹林さんとさえりさんは脚本家であることは同じでも、それぞれが持っている視点は違いますよね。共同脚本で、ズレたりしなかったんですか?
竹林:喧嘩ばっかり……(笑) いや、緊張感のある議論が繰り広げられていました。
夏生:何度も空中戦が展開しましたよね(苦笑)。でもそれは、お互いが本気でいいものをつくりたい真剣さゆえ。最後まで自分の体重を乗せたモノづくりにしたいからこそ、言うべきだと思ったことは必ず言葉にしていました。
©THE INVISIBLES Production Committee
竹林:お互いにちゃんと先を見据えているんですよね。その場で合わせていても、いつか言わなきゃならないタイミングが来るとわかっている。それなら、いま言っておこうって。
夏生:これが実現できているのって、やっぱりチームでのモノづくりが大きいですよね。基本的にクリエティブのチームって、プロジェクトごとに組まれるものじゃないですか。でも私たちはチョコレイト内のストーリーチームでずっと一緒にいるので、成功も失敗も共有できる。同じ知見を一緒に積み上げて、次回に生かすモノづくりができていると思います。
竹林:コロナ禍では「劇団テレワーク」としての活動もあって、短いスパンでのアウトプットを繰り返し、観客のみなさんの反応をリアルタイムで共有していました。
──企画の立ち上げから、稽古、そして公演までのすべてをオンライン上で完結させるプロジェクトですね。
竹林:そうです。1週間くらいで、約60分の物語である「BestFriends.com」という公演を作ったのですが、あの時間は大きかったですね。モノづくりをするうえでメンバーの目線が同じになったし、足並みも揃った。これまでの時間の積み重ねによって、いまのチームがあるんです。
毎熊:3年前の対談の時点で分かったことですが、竹林さんって映画少年だった人ですよね。いっぽう、さえりさんはそういうバックグラウンドを持っていないと。
夏生:そうですね。子ども時代を過ごした環境的にも、映画文化とは距離がありました。
毎熊:そんなさえりさんの立場から、こうして一緒に創作をしていて、竹林さんの映画少年の一面が出るのを感じることはありますか?
夏生:それはつねにあります! やっぱり映画への情熱はすごいなあと。でも一番感じるのは、一緒になって書いたものを、竹林さんが具体的な絵=映像として立ち上げるとき、ですかね。シナリオを書いた人間なりに私も私でイメージを持っているわけですが、いつもこちらの想像を越えたものが生まれてきます。それがどれも素敵なので、今では「どうなるのかわからない」と思ってる部分でも、安心して書いたものを託していますね。
©THE INVISIBLES Production Committee
毎熊:役者の立場からすると、専業の脚本家の方が書いた脚本と、監督がひとりで書いた脚本って、まったく違う印象を受けます。後者の場合、おそらくは現場のことや、その先で待っている編集のことまで考えている。対する前者は、書いた本人が撮影に来ないことがほとんどですから、脚本上に記されている情報量がとても多くて、僕らは監督と一緒になって現場でこれを削り、洗練させていく。そういう違いがある気がしています。
竹林:うん、そうですね。
毎熊:竹林さんの作品って、編集もすごく細かいじゃないですか。だからきっと、脚本段階からさえりさんとはイメージしているものが違うんじゃないかという気がしています。
竹林:僕としては、編集のことを想定しながら書いていますね。でも、あまりそこにばかりこだわっていると、言葉足らずになってしまってみんなに伝わらない。
毎熊:だからこそ、さえりさんの存在が重要になってくるわけですね。
竹林:そうです。僕らは同じ目線でやっているけど、あえて言えば、それぞれ異なる得意分野がある気がします。さえりさんがストーリーの骨格をつくることに特に力を注いでいるのに対して、僕が担うのは肉づけの部分が多いです。骨格がしっかりしていることによって、僕は迷うことなく肉を付け足していけるんですよね。脚本がたどるべきルートを、さえりさんが示してくれているというのかな。
──羅針盤のような?
竹林:まさにそれです。
毎熊:とはいえ、それぞれの役割が違っていたとしても、いや、違っているからこそ、ズレることってないんですか?
夏生:ズレること?
毎熊:おふたりがこだわるポイントとか、それぞれ違う気がして。空中戦を展開していたとのお話が出ましたが、さえりさんと竹林さんが一番闘ったところはどこなのか、かなり気になります。
竹林:どうだろう。大きな闘い……あったかな……。
夏生:物語のクライマックスとか、そうなんじゃないですか。お祭り的な映画の終わらせ方を目指して、竹林さんがいろんなパターンを書いてくださったじゃないですか。
──ラスト付近のシーンですね。
竹林:物語を、映画を、どう着地させるのか。最初のうちはこの着地点が微妙にズレたりしていましたね。
夏生:そうそう。愉快なラストにしようという思いは同じなんだけど、どうしてもちょっとズレるんですよね。でも、目指すべきゴールは同じものが見えてるから、そこに向かって議論を重ねる流れでした。
竹林:脚本の構成上、あのシーンはないほうがいいんじゃないかという話もありました。そのほうが映画の終わりとして美しいんじゃないかって。でも最終的には、やっぱりお祭りみたいなものにしようとなった。
夏生:そうそう、そうでした。それこそ、竹林さんは監督としての視点で、いろんなことを考えていましたね。物語のロジックを破綻させることなく、いかに祝祭的なクライマックスをつくり上げるか。異なるレイヤーにある複数のことを、同時に考えなくちゃならない。監督って本当に大変だと、改めて思います。
毎熊:そうですね。さえりさんとの闘いを終えて現場に入ったら、今度は役者である僕らとも格闘しなくちゃならない。そしてその様子を、さえりさんは見ている(笑)。前回の対談で竹林作品が持つ感動と魅力の秘密について、僕は竹林さんの人柄が大きく関係しているんじゃないかと言いました。それをこの作品の撮影をとおして体感することになりましたね。
竹林 亮
たけばやし りょう|企画・脚本・監督
CM監督としてキャリアをスタートし、JICAの国際協力映像プロジェクトや様々なドキュメンタリー映像を手掛け、同時にMV、リモート演劇、映画等、活動範囲は多岐にわたる。2021年3月に公開した青春リアリティ映画『14歳の栞』は1館からのスタートだったが、SNSで話題となり45都市まで拡大した。監督・共同脚本を務めた長編映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(2022年公開)は、第32回日本映画批評家大賞にて新人監督賞・編集賞を受賞。同作はシッチェスカタロニア国際映画祭ニュービジョンズ部門にノミネート、ヴヴェイ・ファニー国際映画祭でグランプリを受賞するなど、国際的な評価を得ている。映画『大きな家』は第34回日本映画批評家大賞 ドキュメンタリー賞を受賞。2025大阪万博 シグネチャーパビリオン「いのちの未来」ZONE2「50年後の未来」では、ストーリーディレクター兼シアター映像ディレクターを務めた。
夏生 さえり
なつお さえり|企画・脚本
フリーライター出身の脚本家。企画、エッセイ、コピーなど言葉の領域を横断して活動中。
映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』企画・脚本。アニメ映画『超かぐや姫!』脚本。YouTube短編映画『ハロー!ブランニューワールド(動画名:もう限界。無理。逃げ出したい。)』は国内外で6000万回再生。リモート演劇「BestFriends.com」はメディア芸術祭の審査員推薦作品に選出。
そのほか、スターバックス、日比谷花壇、新宿伊勢丹とのコラボ小説も手がける。著書に『今日は、自分を甘やかす(ディスカヴァー・トゥエンティワン)』、『揺れる心の真ん中で(幻冬舎)』、絵本『きみと風(岩崎書店)』他。
毎熊 克哉
まいぐま かつや|俳優
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。『「桐島です」』(25)では第35回日本映画プロフェッショナル大賞、主演男優賞を受賞。主な映画出演作に、『猫は逃げた』(21/今泉力哉監督)、『世界の終わりから』(23/紀里谷和明監督)、『初級演技レッスン』(24/串田壮史監督)、『悪い夏』(25/城定秀夫監督)、『安楽死特区』(26/高橋伴明監督)等。8月『時には懺悔を』(26/中島哲也監督)、11月『月がみている』(渡邉直子監督)、12月『雨のエトランゼ』(城定秀夫監督)の公開が控えている。
『見えない娘 THE INVISIBLES』
2026年8月28日(金)全国公開
もしも、生まれた娘が透明人間だったら?
とある島で、ひっそりと暮らす父と三姉妹の家族。
この家族には、ちょっと変わった秘密があった。
それは、末娘のひかりが生まれつき“透明人間”であること。
娘たちを朗らかに育てた母親が亡くなった後、
心配性の父は、三姉妹を人目から隠すように暮らしていた。
そんなある日、東京で暮らす大女優の祖母が入院したという知らせが入る。
祖母に、ひかりが透明人間であることを打ち明けられないまま、家族は東京へと出発することに。
毎熊克哉 鈴木凜子 近藤華 矢山花 寺島進 余貴美子
友近 濱田祐太郎 宇野祥平 円井わん 浅沼晋太郎 坂口涼太郎 板尾創路 加藤雅也
映美くらら
監督:竹林亮
企画・脚本:夏生さえり・竹林亮
音楽:大木嵩雄 撮影:幸前達之 照明:久保田圭 録音:大高真吾 美術:村中晶子
装飾:矢垣奈苗 操演:川口謙司 衣裳:飯間千裕 Makeup Designer:MARI
編集:小林譲/竹林亮 VFXスーパーバイザー:小木曽功治 音響効果:西川良
カラリスト:平田藍 監督補:徳山武昇 助監督:國領正行
ラインプロデューサー:関原崇将 プロデューサー:野呂大介・柳井望・小林遼・福田文香
アソシエイトプロデューサー:宮川宗生・加島貴彦
宣伝統括:市川晴華・松下加奈 宣伝プロデューサー:水口達己
パブリシティ:小野典子 PR:坂本舞・樋口あるの・櫻井愛莉
主題歌:くるり「ばらの花」 作詞・作曲:岸田繁 編曲:くるり SPEEDSTAR RECORDS
STORY by TAKE C
企画・制作:CHOCOLATE Inc.
製作:CHOCOLATE Inc. PARCO 東急エージェンシー
配給:PARCO CHOCOLATE Inc.
©THE INVISIBLES Production Committee
撮影:西村 満
取材・文:折田 侑駿
1987年3月28日生まれ、広島県出身。2016年公開の主演映画『ケンとカズ』で第71回毎日映画コンクール、スポニチグランプリ新人賞など数多くの映画賞を受賞。以降、テレビ、映画、舞台と幅広く活躍。主な映画出演作に『孤狼の血 LEVEL2』『マイ・ダディ』(21)、『猫は逃げた』『冬薔薇』(22)、『世界の終わりから』(23)、『初級演技レッスン』『悪い夏』『「桐島です」』(25)等。公開待機作に『安楽死特区』『時には懺悔を』が控えている。